暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

誰かに手を差しのべ、寄り添うことの大切さ【映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ】感想

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80点

 

 

 11月8日。映画ファン的には、今年の注目作の1つ『ターミネーター/ニューフェイト』が公開されました。楽しみにしていたのは映画ファンだけではなかったようで、普段あまり映画を観ない層の観客も動員し、その週の興行収入ランキングで見事1位を獲得しました。

 

 しかし、その週末の話題は別の作品が完全に持っていきました。それが本作です。作中のすみっコ達のようにひっそりと公開されてみれば、その外見からは想像もできなかったメッセージ性を含んだ作品としてTwitterで感想が出回り、「奈須きのこが脚本やってる」とか「子ども向け作品を観に行ったかと思ったら『攻殻機動隊』だった」とか大層な言われようをされました。私はすみっコぐらしについてはまるで知らなかったので、当然本作の存在も話題になるまで知りませんでした。

 

 

 しかし、話題になれば観たくなるのが人間。子どもの邪魔になっては悪いので、仕事帰りに鑑賞してきました。ちなみに、このときの劇場内は親子連れと私のような映画ファンらしき1人客(男)とで二極化されており、それはとても異様な光景でした。

 

 鑑賞してみると、なるほどと思いました。純度100%の子ども向け作品でした。しかし、それはつまらないこととイコールではありません。誰かが言いましたが、子ども向けと子供騙しは違います。本作は「すみっコぐらし」の設定を上手く使い、人間にとって、とても大切なことを真摯に訴えた作品です。ここを子供騙しにしていないから、大人にも十分響くメッセージを含んでいるのだと思います。

 

 本作は子ども向けであるため、全体的に分かりやすく作ってあります。井ノ原快彦さんのナレーションで進み、キャラ紹介、キャラの考えていること、今何を目指しているのか、を説明してくれます。このイノッチの声が凄く良くて、何かこう、とても安心できます。

 

 また、すみっコ達もイノッチのナレーション以外に結構個性的な動きをしています。台詞がない彼ら彼女らですが、こうした動きから「何を考えているのか」という深読みをすることが出来ますし、それが各々のキャラの差別化になっています。

 

 本作で重要なのは、すみっコという点。彼ら彼女らは所謂「余り物」であり、社会的、存在意義的にはあまり必要とされていない存在です。だから隅っこが落ち着くんですね。本作の肝は、このすみっコ達が、自分が何者か分からないひよこと出会い、寄り添うことです。

 

 

 本作を観て、現在大ヒット中の映画『ジョーカー』を思い出した方も多いと思います。私もそうでした。あの作品は、社会の隅にいるアーサーが、全てから見捨てられて「悪」になる作品でした。本作のひよこは、終盤に明かされる正体により、『ジョーカー』におけるアーサーと言える存在だということが分かります。ただ、アーサーと違うのは、ひよこには自分に寄り添ってくれるすみっコ達がいたこと。すみっコ達と絵本の世界を冒険し、鬼とか狼とか色々な存在に出会い、友情を育みました。「自分は誰かから必要とされている」ことさえ分かれば、人は前向きに生きていけるのです。場所があれば、こんなに嬉しいことはないのです。

 

 また、ラストでこれまで出会ってきたキャラが総出で助けてくれるのも素晴らしいなと思います。私はここに、「他者と交流を持てば、助けてくれる」というメッセージを観ました。しかも鬼に関しては、「桃太郎」の世界なのに倒さないで話し合いで説得した上で結んだ関係性だったので、より素晴らしいなと。

 

 人が人に対して、手を差し伸べることを忘れかけている現在。「誰からも必要とされていない」存在にも手を差し伸べ、寄り添うことの大切さを描いた本作は、今だからこそ子どもに、そして観客に伝えるべき作品であると思います。

 

 

本作とは根底は同じながらも、結果は全く違うという作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 同じく「子供向け」作品。こっちも素晴らしいぞ。

inosuken.hatenablog.com