暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

真実を伝える姿を描き出す【プライベート・ウォー】感想

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78点

 

 

 実在した戦場ジャーナリスト、メリー・コルヴィンの生涯を映画化した本作。監督は『カルテル・ランド』『ラッカは静かに虐殺されている』などのドキュメンタリーで知られるマシュー・ハイネマン町山智浩さんがたまむすびで紹介していたので興味が湧き、鑑賞しました。

 

 現在、世の中のジャーナリズムは変革を迫られています。インターネット、そしてSNSが誕生し、誰でも情報を発信でき、世界中の情報を瞬時に手に入れることができるようになりました。情報にもスピードが必要になってきたのです。これに打撃を受けたのは新聞各社。スピードだけではネットには適わないので、どんどん部数を落としています。しかし、ネットの情報には信憑性が薄いというのも事実。誰でも情報を発信できるようになってしまったため、新聞各社のように裏取りをしないでそのまま情報を流してしまい、嘘の情報、つまりフェイクニュースが拡散されてしまう事態も生み出しています。

 

 戦場という世界でも最も危険な場所に行き、取材をして、そこに確かにある真実を伝えようとしたメリーコルヴィン。本作は、彼女を描くということは、このジャーナリズム、そして情報というものが軽くなってしまった現代においては、必然だったのだろうと思わせる内容の作品でした。

 

 

 監督は前2作で異なる戦場をドキュメンタリーとして制作しましたが、本作では、新聞記者の立場の変遷を、時代を順番に見せて映していきます。メリーが目を失ったときは「アメリカ人記者だ」と言っても爆撃を食らい、最後の戦場では「記者が狙われている」とまで言われます。メリーは、そしてジャーナリストは時代が変わるにつれて、どんどん追い込まれていくのです。

 

 本作はそのようなジャーナリストの変遷とともに、メリーの人生を描きます。戦場シーンもかなりの緊迫感。それはさながらドキュメンタリーのようで、彼女が何に苦しみ、戦い、戦場に行っていたのかを丁寧に映し出していきます。そこでの彼女は英雄ではなく、アル中でPTSDに苦しむ1人の女性です。この「彼女の真実の姿を伝える」ことそのものが、フェイクニュースが蔓延する現代において、「真実を伝える」事と重なり、本作の目指そうとしているところが分かります。

 

 何故彼女は戦場に行くのか。その理由は名誉でも金でもなく、伝えなければならないことがそこにあるから。だから彼女は戦場に行き、取材をし、声にならない人の声を届けるのです。そんなジャーナリズムの矜持を見せつけてくる作品でした。「自己責任」とか「マスゴミ」とか軽々しく言う人間は(マスゴミに関しては言いたくなる気持ちは分からないでもない)、須らく観るべきだと思います。

 

 

一応、ジャーナリズム繋がりということで。言いたいことがないわけじゃない。

inosuken.hatenablog.com

 

 こちらもジャーナリズム。こっちは素晴らしかった。

inosuken.hatenablog.com