暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

心の深淵を巡る旅【アド・アストラ】感想

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78点

 

 

 初ジェームズ・グレイ。当初は観るつもりはなかったのですが、例によってヴェネチア国際映画祭にて大変評判が良かったということと、このような文芸映画っぽい作品が近くのシネコンでかかっていて観やすかったので鑑賞してきました。

 

 予告とポスターと主演から感じ取れる本作の印象は、『インターステラー』のようなSFスペクタクルです。しかし実際に観てみれば、描かれていたのは宇宙の深淵というか、ブラットピット演じるロイの心の深淵であり、2時間近い映画の中でひたすらにロイの個人的な話が続くという、宇宙というスケールの大きさに比して非常に小さな話をやっている作品でした。これは観客の間で評価が割れるのも納得の作品です。

 

 

 本作の主人公、ロイは宇宙飛行士。常に冷静で、心を乱さないエリートです。しかしそれは、内向的で、他者を寄せ付けないATフィールド全開の性格から来ています。つまり、人間として欠陥があるからこそ、彼は優秀な宇宙飛行士たり得ているのです。

 

 本作はこのロイに寄り添って作られています。だから物語は彼の内面のように非常に淡々としています。作中で事件は起こるのですが、常にどこか冷めているのです。あまりにも淡々としているため、私は少しだけ眠くなってしまいました。

 

 本作はこのようなコミュ障ロイが、心の中のわだがまりを解き放ち、人と触れ合うことの大切さを知るまでを描きます。本作において宇宙とは、異星人との出会いとかいうロマンあふれる場所ではなく、ロイの、そして人間の心の深淵そのものとして描かれていると思います。なので、本作における宇宙の旅とは、ロイの心の深淵を巡る旅なのです。そしてどんどん心の闇に入っていき、その究極的な存在としての父に出会います。彼はロイのわだがまりであり、同時にロイがこのままの状況で向かってしまう未来像です。この究極の闇と自らが対峙し、決別することでロイの心の中に光が差し始めます。この点では、本作は王道の「行きて帰りし物語」だと思います。問題はそのスケールが一個人の心の中という非常に小さいものだということですが。

 

 以上のようなことから、本作が賛否を呼んでいるのは分かります。あの予告から期待して観に行った人は、この内容では不満を抱くでしょう。しかし、SF映画を、「個人の内面の物語」という対極的な小さいスケールで描いた本作は面白い内容だなぁと思います。私は本作には肯定的です。眠くなったけど。

 

 

同じく異星人とのファースト・コンタクトもの。

inosuken.hatenablog.com

 

 まぁ哲学的な映画ということで。

inosuken.hatenablog.com