暇人の感想日記

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驚異的な色彩美で描く、影の物語【SHADOW/影武者】感想

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65点

 

 

 最初は観るつもりはありませんでした。では何故観ようと思ったのかと言えば、私が購読している映画秘宝のレビューで、「チャン・イーモウ復活作」と書かれていたから。世界的な巨匠と言われていながら、私はチャン・イーモウ作品は観たことがなかったので、鑑賞しました。

 

 私の記憶が正しければ、チャン・イーモウの監督前作は『グレート・ウォール』だったと思います。私は観ていないのですが、評判と映画の予告を観る限りではたいそう愉快なバカ映画感を醸し出していました。しかし、本作はそのようなバカ映画感はほとんどなく、墨のような、非常に美しい色彩の映像美で綴られる立派な文芸映画でした。

 

 時は戦国時代。沛(ペイ)国は大国、炎と休戦協定を結ぶ代わりに、領土の一部を明け渡すという平和ながらも屈辱的な日々を送っていた。本作は、その炎に奪われた領土奪還を目指す都督と、その影武者の物語です。

 

 

 物語は大きく3つのパートに分かれています。主人公、都督とその妻、そしてその影武者が着々と準備を進める第1部、領土奪還を描く第2部、そして影武者が「本物」になる第3部です。

 

 鬼門は第1部です。非常にゆったりとしたテンポで進み、音楽も単調なので、正直言ってしまえば、退屈で、眠くなるかもしれません。しかし、それはただ単に退屈なのではなく、観るべき箇所はいくつもあります。まずはその色彩美です。これは本作全体に言えることなのですが、終始画面の色が白と黒なのです。これは本作が白黒映画と言うわけではなく、美術とか照明の力なのではないかと思います。そしてこの色彩には意味があり、本作のテーマである「光と影」や「陰と陽」を表しているのでしょう。さらには役者の所作。1つ1つが丁寧でした。そして最後はCGを使わない生身の戦闘訓練。スローモーションを駆使したもので、緩急がついていて見応えがあります。こんなとこです。

 

 この緩慢とした空気は、第2部でひっくり返ります。2部ではうって変わり、傘を駆使した自身の身を一切顧みないトンデモ戦法を以て血みどろの合戦シーンを見せてくれるのです。ここには突っ込みどころが満載で、皆が傘を取り出すシーンでは正直言って爆笑してしまったのですが、砦の攻略戦は、黒澤明の『七人の侍』を思い出させる日本の昔ながらの時代劇のような趣があり、大変面白かったです。

 

 第3部では謀略がありながらも、「影」である主人公が「影」を止めることで映画は幕を閉じます。それは利用されるだけだった存在が何かを手に入れるまでの話であるし、同時に都督が自分の闇に呑まれる話でもあったのかなぁとも思います。とにもかくにも、色彩は美しかったです。まぁ、お勧めするかどうかと言われれば、多分しないです。つまらなくはないですが。

 

 

同じく映像美映画。

inosuken.hatenablog.com

 

 黒澤時代劇。

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