暇人の感想日記

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事なかれ主義は破滅への第1歩【隣の影】感想

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87点

 

 

 アイスランド発の映画。ぴあの水先案内で私が信頼している案内人が推薦していたので興味が湧きました。ただ、公開規模が小さいということがあり、時間の関係で中々観に行けず、公開からしばらく経ってしまったのですが、夏休み中にちょうど観られるタイミングができたので、鑑賞した次第です。

 

 本作は、我々も日常的に暮らしているような平凡な住宅地を舞台にしたご近所トラブル映画で、非常に小規模な作品です。しかし、それであるが故に本作で起きていることが他人事のように感じられず、観ている間、終始緊張しっぱなしで、胃がヒリヒリと痛む作品でした。

 

 全ては、隣の家から「邪魔だから木を少しだけ切ってほしい」とお願いされていた家族が、中々要求に応じなかったことが発端です。この木がある家には老夫婦が住んでいて、途中から主人公である次男が帰ってきます。この次男は元カノとのSEX映像を使って自慰をしていたところを奥さんに見つかってしまって、家を追い出されていて、緊急避難として実家に戻ってきているのです。この自慰がバレるシーンに代表されるように、本作には、笑いに至るまでそこかしこに監督の意地悪な性根が見えています。

 

 最初こそ、些細なことでした。普通の大人ならば、ここは大人の対応をしましょうやと、話し合って妥協点を見出すはずです。しかし、木を植えている隣家、特に老婦人は違いました。長男が失踪していることで「これ以上何も失いたくない」と思っているのか、頑なに隣家の要求を拒みます。そしてある日、家の車がパンクしたことを機に、隣家への疑いを強めていくのです。ちなみに、このパンクは最後に至るまで誰の仕業かは分かりません。ここも不気味な点です。それはエスカレートしていき、家に監視カメラを設置し、庭を荒らすなど、隣家への嫌がらせを強めていきます。そして「猫が消えた」ことで、老婦人は人間としての一線を越えます。この行いにはドン引きしました。これにより、まだ大人で、老婦人への横暴にもイライラを募らせつつも、耐えていた隣家も報復をし、そこからはもう取り返しのつかない大惨事を生みます。

 

 何故こんなことになったのか?それは簡単で、互いが互いのエゴを剥き出しにたから。それは彼らと対比的に描かれる主人公とその奥さんによって強調されます。彼らは、紆余曲折ありましたが、きちんと互いに理解をし、「大人の対応」をするのです。まぁ、この和解の後に惨劇が起こってしまうので、監督は意地が悪すぎるなと。

 

 そして、もう1つの問題点があって、それは老夫婦の夫です。彼は明らかにおかしくなっていっている老婦人に対して、特に何をするでもなく、ひたすらに事なかれ主義を貫きます。ようやく行動をしたと思ったらまさかの逆ギレで、惨劇を広げてしまいます。彼は別に分かっていないわけではありません。劇中では、「話し合いをしなければならない」と主人公にアドバイスをします。そう、彼は「分かっているくせに行動していない」という一番たちが悪い人間なのです。だからこそ、最後の惨劇の責任転嫁をすることでしか自分を正当化できないのです。

 

 ラストの「帰還」も含めて、極めて露悪的で、意地の悪い映画でした。そのヒリヒリ感が最高であったのですけど。

 

 

正反対の日常礼賛映画。

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 同じく隣人映画。

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