暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

自分を解放するミュージカル【ダンス・ウィズ・ミー】感想

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76点

 

 

 矢口史靖監督最新作。私は矢口監督の作品は映画をよく観るようになる前から観ていて、そのおかげで『ロボジー』以外は監督作は全て観ています。平均して面白い作品を送り出してくれている方なのですが、直近の2本は個人的にはどストライクに素晴らしい作品だったので、より期待値は高まるというものです。

 

 鑑賞してみると、直近の2作ほど「素晴らしい!」とは思わなかったものの、まぁ料金分の面白さはあったかなぁと思えるくらいには楽しめました。

 

 本作は「ミュージカル映画」と謳っていますが、その内実は少し違っていて、正確には「メタ・ミュージカル」と言った方が正しいのではないかと思います。ミュージカル映画を観ていて、誰もが「変じゃね」と思う、「突然踊りだす」という映画的な演出を、もし現実でやったら?ということを実践しているからです。

 

 ミュージカルというのは、そもそも非常に映画的なジャンルだと思います。劇中の登場人物の心情を歌とシンクロさせ、心の解放を踊りで表現しています。だから劇中の踊りは基本的には心情表現であり、現実に起こっている事ではありません。しかし、普通のドラマをやっていると思ったら急に主人公が歌い出し、周りもノリノリであるため、そこに乗れない人がいるのも分かります。普通に考えたらおかしいし。

 

 本作はそこに切り込んでいるわけです。主人公の静香(三吉彩花)が躍り出す理由を「催眠術のせい」にして、ミュージカルの違和感を無くしています。この最初に踊りだすまでの仕込みが非常に丁寧で、それ故に最初に踊る(=盛大にやらかす)シーンが映えます。しかし、実際に踊るのは現実であるため、周囲からは奇異の目で見られるし、踊った後に壊したものとかを弁償しなければならなくなるのです。ここには、我々が感じた、上述のような違和感に対する監督の意見が見えます。「こうだよね」みたいな。

 

 序盤こそ、このようなメタ・ミュージカルを見せてくれ、大変楽しめるのですが、後半のロード・ムービーの下りからちょっと失速してくるのは事実。メタ・ミュージカルもそこまで、いや、全然機能してないし。

 

 このロード・ムービーから、矢口監督の考え方のようなものが見えてくる気がします。要するに、「都会嫌い」であり、そこから離れることによる、自分自身の解放です。本作をよく観ると、最初のシーンから、静香が一流企業で「自分を偽って」働いていることが、説明ではないそれとない仕草で分かります。彼女は催眠術のせいで高級マンションの家具一式を無くし、千絵(やしろ優)とのロード・ムービーになってからは、スマホを無くします。こうして、都会的な文明の利器、ステータスを全て失い、田舎に行くことで次第にしがらみから自分を「解放」していくのです。思えば、監督の直近の2作『WOOD JOB!』と『サバイバル・ファミリー』もそんな話でした。まぁ正直、『寅さん』かよ!と言いたくなりますが。

 

 ただ、こうした「ステータスを取っ払って、素の自分のまま生きよう」という上述の展開が、そのまま「心の解放」であるミュージカルと重ねられているのはさすがの上手さだと思うし、何より、主演の三吉彩花さんが素晴らしすぎました。めっちゃ美人じゃん。他にも、ムロツヨシムロツヨシ感とか、やしろ優さんの好演(カップ焼きそばのシーン最高でした)とか、役者も素晴らしく、また、ミュージカルも序盤ならば最高であるため、楽しめたのだと思います。