暇人の感想日記

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「どうしたんだ、原恵一!」と戸惑わずにはいられない【バースデー・ワンダーランド】感想

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40点

 

 

 『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』、『河童のクゥと夏休み』など、これまで傑作を多く世に送り出してきた原恵一監督。非常に強い作家性を持ち、故に『クレヨンしんちゃん』以外はそこまで大規模な公開はなく、興行収入もいい成績を残せていませんでした。本作は、そんなメジャー路線から外れていた原監督が『クレヨンしんちゃん』以降、初めて大規模公開した作品です。私は原監督には裏切られたことがないので、作品が公開されれば絶対に観ることにしているので、今回も鑑賞した次第です。

 

 しかし、鑑賞してみて、非常にガッカリしてしまいました。言いたいことは分かりますし、その点は原監督らしいなと思うのですが、如何せん映画そのものの出来が微妙過ぎて、本当に原監督が作った映画なのかと頭を抱えてしまう作品でした。

 

 

 まず、良い点を先にあげておくと、冒頭20分くらいの日常描写。バターの塗り方とか、料理を作っているときの芝居などは素晴らしいと思いましたし、小学校のLINEを使った実に嫌な感じの同調圧力にも戦慄しました。後は異世界が「テクノロジーが発達しなかった世界」だという点が興味深かったですね。まぁこのくらいかな。次から酷評します。

 

 本作で描きたいことは、おそらく主人公、アカネのちょっとした成長です。学校で起こった、ちょっとした出来事に罪悪感を覚え、不登校になってしまったアカネが異世界を冒険して世界の広さを知り、ちょっとだけ前向きになる話です。この「現実の自分と世界に折り合いをつける」という描き方は非常に原恵一監督らしいと思います。しかし、問題はその描き方なのです。本作はそこが絶望的に下手だと思いました。

 

 ダメな点を挙げるとキリがないのですが、私が最もイカンと思ったのがストーリー展開。よくあるファンタジーもののセオリー通り、その世界にある不思議なもの、美しいものをアニメーションならではの自由さで描きます。ここらへんはイリヤ・クブシノブ氏の能力の凄さを実感できますし、1つ1つはなるほど中々面白いなと思えます。

 

 しかし、問題なのは、これら1つ1つがてんでバラバラで、全く繋がっていないという点。劇中では『恐怖の報酬』の吊り橋のオマージュとか迫ってくる敵との追いかけっことか色々あります。普通の映画ならば、これら1つ1つを段取りをきちんとつけ、どうストーリーに組み込んでいくかという試行錯誤があると思います。しかし、本作ではこれらのイベントがストーリーに全く絡まず、全然出来てないと思いました。しかも、これらが出てくる最初の1時間くらいは、映画全体から言えば必要ないように思えます。一応、最後でそれっぽい理由付けは出てきますが、説得力はないと思います。『千と千尋の神隠し』って、やっぱり凄かったんですね。

 

 

 さらに問題なのは、情報の出し方と、目的の適当ぶり。例えば、セーター。先述の道中の理由です。そしてそのセーターは苦しい村のためにおばあさんが必死になって編んだ物とのこと。それがコンテストで1位になれば、という願いが託されています。しかし、このセーターはその後何か重大なアイテムになることもなく、「優勝しました」と示されて終わります。何だそれ。しかも王子の失踪の理由である雫斬りの儀式は「失敗した場合は命を落とす」だとか。これも後から分かるのですが、観客としては、「うん。そりゃ逃げるわ!」と言いたくなります。

 

 まぁこれは良いですよ。しかし、最大の問題は、主人公の新庄アカネです。この人はとにかくずっと受け身で、最後の方まで全く自主的に行動しません。最後の方で何か急に覚醒して説教を始めます。これは「同じ苦しみが分かる」者同士だからかもしれませんが、それにしても説得力がないような・・・。

 

 ただ、能動的に動かない理由は簡単で、アカネは強引に異世界に連れてこられたから。それもヒポクラテスに連れられ、「前のめりの碇」なる錬金術の道具をつけられ、無理やりにです。そこにアカネの意志など関係ありません。この点は王子も同じで、彼は生まれながらにして死を背負う運命を押し付けられていて、「逃げないように」と言って魔法で動けなくされています。人権無視とか最悪だな。最終的に2人は問題と向き合って解決しますが、最初にも書いたとおり、この「世界のどうしようもない押し付け」に対して折り合いをつけようという点は、原恵一監督らしいなと思います。

 

 他にも世界の危機という割には絶望感ゼロだとか、そもそも全てはあの魔術師のせいだろとか、専業主婦は楽じゃないぞとか、言いたいことは山ほどあります。しかし、それだと分量が多くなってしまうので、簡単に言及するにとどめ、感想を終わりたいと思います。正直、これが無名の方の作品ならば、凡作だなくらいの感想で終わっていましたが、こと傑作を作り続けた原監督の作品としては、大変ガッカリしたと言わざるを得ません。

 

 

こっちも微妙だったなぁ。

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 こっちは最高でした。

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