暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

目を覚ませ。正しいことをしろ。【ブラック・クランズマン】感想

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95点

 

 

 『ドゥ・ザ・ライトシング』、『マルコムX』を監督したスパイク・リーの最新作。内容は「黒人警察官がKKKに潜入捜査する」というウソのようなホントの話。私は彼の作品を観たことがなく、今回鑑賞したのは、まぁぶっちゃけアカデミー賞という話題性ですよ。それにプラスして、観た方の評価が高いというのもありました。

 

 このような不純な動機で観た本作ですが、本当に面白かった。監督が持っている、差別への怒りを描いた映画でありながら、バディものとして、潜入捜査ものとしても素晴らしいものでした。また、『ドゥ・ザ・ライトシング』を踏まえると、スパイク・リーが全くぶれていない監督であることも分かります。

 

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 冒頭に映されるのは名作『風と共に去りぬ』のラストシーン。日本では「名作」とされていますが、アメリカでは白人至上主義的だと批判され続けていました。というのも、この映画は黒人奴隷を推奨していた南部側の話なのですから。そんな作品のラストシーンを使い、南北戦争終結を描いているのです。ここから本作は、黒人が奴隷から解放され、権利を得ていくまでを描きます。映画を使って。ここで映されるのはかの「名作」『国民の創世』。映画史に残る歴史的名作ですが、KKKをヒーローのように描いている作品です。

 

 「黒人の歴史」をこのような映画を使って描くという何とも皮肉に満ちた演出の後に始まるのは、ボーリガード医師による、白人至上主義的な演説。演じるのはアレック・ボールドウィン。彼は今、アメリカのTV番組「サタデーナイトライブ」でトランプのモノマネをやっている人。これによって、この主張をトランプが言っているような錯覚を覚えます。

 

 このような皮肉と遊びに満ちた演出の後、ようやくロンの物語が始まります。ここからは「正体がバレるのか?」という潜入捜査モノ特有のサスペンス、そして黒人のロンとユダヤ人のフィリップのバディもの的な面白さもありつつ、それらを全体的にコメディタッチに描いていきます。

 

 ここで出てくるKKKの面子も最高で、皆揃いも揃って根拠もないことを信じ込んでいて、ことごとくバカっぽく描かれています。ただ、そこで出てくる台詞が「アメリカファースト」だったり、「ホロコーストは捏造なんだよ、記録映像だってアイツらが作ったんだよ」とかは(どこまで創作かは分かりませんが)、現代でも似たようなことが言われているあたりちょっとゾッとしますね。

 

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 映画は「潜入捜査もの」として、そして黒人への差別意識を描いた映画として、非常に後味の良いラストを迎えます。ここで終わればただの「良い映画」です。しかし、この映画は我々を気持ちよく帰してはくれません。不意に鳴るノック音から、我々に「現実」を突きつけてくるのです。

 

 その「現実」とは、ここで痛快に成敗してやったはずのKKKの思想が生み出し、今にも続いている「差別との戦い」です。

 

 私はパンフレットで知ったのですが、KKKは、1度は無くなっているのです。では何故復活し、今も存続しているのか。その原因は、前述した『国民の創世』です。あの映画は公開当時大ヒットを記録し、KKKを復活させました。公開の翌年、どんなことを引き起こしたのかは、あの黒人の老人が語っていた通りです。そして、その思想は今にも続いています。

 

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 そしてあの映画は、今に通じる映画の技法をほぼ全て確立した作品とされ、監督のD.W.グリフィスは、「アメリカ映画の父」とまで呼ばれています。1本の映画が、今のアメリカの現状を作った。アメリカ映画には、誕生の瞬間から「罪」がある。そう言えなくもないような脚本です。

 

 だからこそ、スパイク・リーは戦うのです。同じ「映画」で。ノックの後、我々に向けられた銃口は、スパイク・リーの「俺は戦い続けてやる」という意志の表れに思えました。

 

 そしてこれは、『ドゥ・ザ・ライトシング』から変わらない、スパイク・リーの信念でもあります。彼は『ドゥ・ザ・ライトシング』においてこう言っていました。「Wake up!(目を覚ませ!)」と。劇中でロンもフィリップも、それぞれ黒人として、ユダヤ人として「目覚め」ます。

 

 Wake up. Do the right thing(目を覚ませ。正しいことをしろ).

 

 本作は、この「目覚めた」2人が「正しいことをした」映画であり、同時に、この混沌とした時代だからこそ、「目覚め」正しいことをしなければならない。そんなことを考えた映画でした。最高です。

 

 

同じく人種差別を題材としている作品ですが、本作とはまるで違うアプローチでした。 

inosuken.hatenablog.com

 

 黒人監督の作品。こちらは非常に美しい作品でした。

inosuken.hatenablog.com