暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

美しい映像で紡がれる「そうなるしかない」2人【ビール・ストリートの恋人たち】感想

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75点

 

 

 『ムーンライト』でアカデミー賞の作品賞を獲得したバリー・ジェンキンス監督。彼が次に放った作品は、アメリカの文豪、ジェームズ・ボールドウィン原作の小説でした。恥ずかしながら、私はこの作家さんは全く知らなかったのですが、『ムーンライト』のバリー・ジェンキンスの作品だと聞いて鑑賞しました。

 

 映画は路を歩く2人を上から捉えたショットから始まります。この時点から画面が美しく惚れ惚れするのですが、その上から捉えたカメラが下りてきて2人のキスを捉えます。ここで、2人は幸せなんだなと思うわけですが、そこから画面がパッと変わり、キスしたのと同じような構図で、刑務所のガラス越しに向き合っている2人が映されます。私はここで、幸せの絶頂だった彼らが一気に不幸に見舞われたのと同じ気持ちを味わいました。ここから、2人が幸せになっていく過去と、刑務所に逮捕されたファニーを釈放しようとする現在が交互に描かれていきます。

 

ビール・ストリートの恋人たち

ビール・ストリートの恋人たち

 

 

 本作では、やはり差別が描かれていますが、『グリーンブック』や『それでも夜は明ける』のように、声高には描きません。ただ淡々と、さりげなく描いていきます。何より、本作のメインは、「引き裂かれた恋人」だと思うのです。白人の黒人への差別意識により、「生きたいように生きられない」黒人の恋人たちを描いているのだと思います。

 

 こうして観ていくと、幸せに向かっていく過去は愛おしく感じられるし、その分、引き裂かれた現在は「早く何とかなってほしい」と思わずにはいられません。この状況は最後まで変わらないのですが、「結婚していないことを意識している」ファニーと、彼を想うティッシュが、ラストまで引き裂かれたままな状態を見て、本作が『ムーンライト』と同じく、「生きたいように生きられなかった人」の話なのだと思いました。

 

 バリー・ジェンキンスは『ムーンライト』で画面の美しさを我々に見せつけましたが、本作でもそれは健在で、観ていて終始美しさに圧倒されていました。美しい画面の中でも、辛い現実を生きる人々を映した映画だと思いました。