97点
「セルジオとドンに捧ぐ」
本作の最後に出てくる言葉です。ここでいうセルジオとドンとは、もちろんセルジオ・レオーネとドン・シーゲルのことです。クリント・イーストウッドは、彼らと組んで多くの作品を生み出してきました。中でも有名なのは、『荒野の用心棒』や『ダーティ・ハリー』といったアクション映画です。これらはイーストウッドの代名詞的な作品として、今でも有名です。本作はこれらのイーストウッドのキャリアを批評的に描き、1つの「落とし前」をつける作品でした。
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本作は非常にベタな、王道の西部劇だと思います。もう引退した大悪党であるウィリアム・マニー(クリント・イーストウッド)が、家族のためにもう一度仕事に舞い戻ります。余談ですが、このマニーも、経歴的にはどう考えてもイーストウッド自身の投影でしょうね。標的は娼婦を傷つけたカウボーイ。地元の保安官は納得のいく裁定をしてくれず、娼婦たちは金を集め、カウボーイに懸賞金を懸けたのです。
出だしからしてこうですが、中盤にも酒場で主人公と保安官一行が出会い、一触即発になるシーンがあったり、ラストの展開も、「復讐のためにもう一度立ち上がる」という、非常に燃えるはずです。
しかし、本作はこういった「西部劇的な」お約束のシーンを、全て批評的に描いています。まず主人公は伝説の大悪党なのですが、実態は過去の罪に怯えている老人ですし、中盤の酒場のシーンでも、大立ち回りをするのではなく、一方的にやられているだけです。挙句、ラストシーンに至っては、燃えるどころか、非常に残虐なシーンとして描かれています。これによって、過去にイーストウッドが主演してきたマカロニウエスタン、西部劇を我々観客にリアルに見せてくれます。「映画の中ではカッコよく描いているけど、実際はやっていることは暴力で、こんなに残酷なんだぞ」と。
「伝説」のリアルを見せる、という点では、もう1つの重要な要素として、ライターの存在があります。彼はガンファイター、イングリッシュ・ボブ(リチャード・ハリス)の伝記を書こうとしていましたが、保安官のリトル・ビル(ジーン・ハックマン)によって、その「伝説」が、実は非常にみっともない内容であるとして、ことごとく覆されます。これも西部劇の「フィクション」の化けの皮を剥がす行為です。
「伝説的な」カッコよさは消え、観客はスコフィールド(ジェームズ・ウールヴェッド)のように、本作で描かれている西部劇に憧れを描けなくなりました。そうするとそこに残るのは、暴力だけです。だからこそ、ラストのマーニーの行為には、カタルシスも何もなく、残酷に感じるのだと思います。
以上のことから、自身の経歴に輝く「伝説」の化けの皮を剥がし、暴力性を描き出した本作は、イーストウッド自身が、自分のキャリアに1つのケジメをつけたものだったと思うのです。だから、一番の「許されざる者」は、イーストウッドなのかもしれません。