暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

浮かび上がる「罪」【THE GUILTY/ギルティ】感想

f:id:inosuken:20190302123653j:plain

 

92点

 

 

 全編に亘って緊急通報指令室のみで物語が展開し、「電話の音だけで誘拐事件を解決する」というワンアイディア映画。昨年は『Search/サーチ』のように、全編PCのモニターだけで物語が展開する作品も公開されました。あちらも「PC画面」であることを存分に活かした作品でしたが、こちらも負けず劣らず、「音だけ」という条件をフルに使った作品でした。

 

 人間は、音と声を聴くと、そこから状況を推測し、自分でイメージを作り上げていきます。本作では、そこが存分に発揮されていて、ミスリードとして機能し、それが作品の1つのテーマでもある、「偏見」にも見事に繋がってくるのです。

 

 

 本作の主人公はアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)。本作はイーベンという女性が男に「誘拐された」という通報を受けとるところから始まります。ここからアスガーの捜査が始まるわけですが、1つ1つの状況を音のみで浮かび上がらせるアスガーの推理は、観ていてとても論理的で、「なるほど」の連続です。そして浮かびあがる事件の全体像は、「DV夫が奥さんを連れ去った」というもの。ここから、「さぁ、犯人を捕まえるぞ」という展開になるかもしれないですが、本作の「本当の物語」はここから始まります。最初に組み立てたこの推理がどんどん覆されていくのです。本作はこの「音」による状況の構築と再構築が素晴らしく上手いのです。そしてそこから浮かび上がるのは、アスガーの、そして我々が持つ「偏見」です。

 

 本作は観客がアスガーと同等の体験ができるように作られています。劇中でBGMはほとんどかからず、電話越しの「音」が強調された作りになっており、アスガーが電話に出ると、劇場がその音に包まれる演出がなされています。そして、アスガーと同じような「推理」をしてしまうのです。人間というのは、須らく、こうした偏見による「罪」をしているのだと気づかされます。

 

 このアスガーにしても同じです。最初こそ、事件解決の「主人公」かと思われますが、中盤から、何だかおかしな感じがしてきます。この男、自分が犯したことに向き合おうとしないのです。序盤でかかってきた過去の罪に対する取材の電話にも応答せず、電話で受けている誘拐事件だって、コイツが事態を悪化させたことは明白なのに、そこに対して何も相手に言おうとせず、「大丈夫だ」と見苦しくも事態の解決を図ろうとします。ここまで考えると、序盤から彼が言っている「自業自得」という言葉にも嫌悪感を抱きます(そして、少なからずそう思ってしまった自分にも)。彼はいくつかの電話で、相手の話をあまり聞こうとせずに「自業自得だろ」と突き放します。これも彼と私たちの偏見がなせる業だと思います。

 

 そして、このアスガー自身のことも徐々に明かされていきます。ここからも、彼が自らの罪に向き合おうとしないことが分かり、「罪と向き合え!」という言葉がブーメランになって返ってきます。アスガーはこの事件を通し、自分の暗黒面へ向き合うことになり、新たな1歩を踏み出します。ラスト、電話をかけている彼は、裁かれることを決意し、それを待っているような、そんな感じがしました。彼は警察官としてのキャリアを引き換えに、人間として大切なことを取り戻したのだなと。アスガーの前の光が、その希望を表しているような気がしました。

 

 

同じようなワンアイディアの映画。こっちも設定とドラマの融合が素晴らしかった。

inosuken.hatenablog.com

 

 

同じく、「音」を活かした映画。でも、こっちは設定倒れな気が。

inosuken.hatenablog.com