暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

夫婦の複雑な関係を描き切った秀作【天才作家の妻 40年目の真実】感想

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80点

 

 

 最初は観るつもりは全くありませんでした。それなのに何故観ることになったのかというと、私がヘタレてしまったから。その日は、本当は『バジュランギおじさんと小さな迷子』と『サスペリア』を観ようと思っていたのですが、どちらも上映時間が150分を超える作品で、久しぶりに2本同時鑑賞をしようとする身にはキツいと思ってしまったのです。そこで、『バジュランギおじさんと小さな迷子』を後日観る事にし、ちょうどいい時間にやっていて、尚且つ上映時間が100分くらいの本作を鑑賞した次第です。

 

 鑑賞してみると、本作は「理想の夫婦の裏側」というサスペンスでありながら、2人の複雑な関係を見事に描き切った秀作でした。

 

 本作の内容は、表面上は単純明快。要は長年不満を溜めてきたショーン(グレン・クローズ)が、旦那であるジョゼフ(ジョナサン・プライス)に最後にその不満を爆発させるって話。本作は2つのパートに分かれていて、夫婦がノーベル文学賞を受賞するまでの「現在」と、夫婦が知り合って「秘密」を共有していく「過去」です。本作は、これら2つのパートを並行して語ることで、この夫婦の秘密が徐々に明らかになっていくというサスペンスの構造をとっているのです。

 

 この秘密が明らかになっていくと並行して、夫婦の間にも徐々に亀裂が入っていき、終盤では夫婦の見え方が、最初に抱いた印象と180度違うものになっています。これを印象付けるのがグレン・クローズの名演技(と言う他ないくらい素晴らしい)です。ストーリーが進むにつれて彼女の中に溜まっていくフラストレーションを、表情の変化のみで表現しています。特に終盤のわずか数十秒の間に見せるあの演技は圧巻で、鳥肌ものです。

 

 本作は所謂「理想の夫婦の裏側」モノになると思うのですが、最終的に決別する話ではなく、最後まで2人の間にあった不思議な関係の話になっています。旦那はダメ人間でしたが、奥さんが旦那を恨んでいたかと言えば、100%そうではなく、寧ろ2人の関係は知り合ったころから全く変わっていないことが劇中2回出てくる「ベッドの上で小躍りする」シーンで分かりますし、ラストで起こった悲劇に悲しんだりするのです。ただ、2人が「愛し合っているか」と聞かれれば100%そうではない。だからこそ奥さんはラストで不満を爆発させたのですから。私は本作が真に素晴らしいのはこの点だと思っていて、人間を一面的ではなく、多面的に描き切っている脚本、演出、そして役者の方々の演技力に感動しました。

 

 最後に、夫婦の関係を追求するライター役でクリスチャン・スレイターが出ていますが、「お前は追及される側だろ!」と突っ込みたくなったことを書いておきます。