暇人の感想日記

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街のダニ共を殲滅せよ【狼の死刑宣告】感想

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86点

 

 

 ソリッドシチュエーション・スリラー作品の『ソウ』や、ホラー映画『デッド・サイレンス』を撮ったジェームズ・ワン。彼が次に監督した作品は、まさかのビジランテもの。原作は『狼よさらば』を執筆したブライアン・ガーフィールド。それまでの2作と全く違う作風ですが、非常に面白かったです。ジャンルは確かにビジランテものなのですが、昨年公開された『デス・ウィッシュ』のような爽快感溢れる作品ではなく、実際に復讐した場合の割の合わなさ、そしてその代わりとしての司法制度の必要性について考えてしまう作品になっていました。

 

 本作の主人公は投資会社に勤めるニック・ヒューム。いい奥さんと2人の息子に恵まれ、幸せな家庭を築いている彼ですが、ギャングに、「仲間になるため」という心底どうでもいい理由で息子を殺されてしまいます。しかも司法は犯人に相応の罰を与えてくれない。普通ならば、ここで銃器を購入し、犯人の制裁に精を出しそうなものですが、本作のニックは違います。その場の怒りに任せて杜撰な制裁を行ってしまうのです。しかもそれによってどんどん状況が悪くなります。普通なら苦戦しつつも主人公が悪党をバッタバッタとやっつけそうなものですが、ニックに関してはスタイリッシュな感じは全くなく、非常に泥臭い戦いをします。ここのカメラワークと戦い方が創意工夫に富んでいて素晴らしかったです。まず、駐車場を上へ上へ逃げていくニックをカットを割らずに描き、逃げているニックとギャングの距離感を示して緊張感を高め、いざ戦闘が始まると、車を使った見事な決着を見せてくれます。

 

 こうして迫る脅威を払ってきたニックですが、状況はどんどん悪くなり、最終的には最悪の結末に辿り着きます。ここでニックは遂に覚醒し、銃器を揃え、使い方を勉強し、周到に準備をしていきます。これをニックが髪を剃るシーンと並行して映すことで、「完成」していくまでを描く編集はとてもいいなぁと。しかし、「完成」したその容貌は敵であるギャングたちと大差のない『北斗の拳』スタイル。ここで、もう彼は戻れないところまで行ってしまったことが示されます。覚醒した時のケヴィン・ベーコンの表情の変化が凄まじい。

 

 遂に敵のアジトへ攻め込み、見事敵を皆殺しにするわけですが、そこで「よっしゃぁぁ!」とならないのが本作の醍醐味。ラストで映されるのは、平凡なサラリーマンがすっかり変わってしまい、家庭を無くし、自らは犯罪者になってしまった姿でした。

 

 本作は所謂ビジランテものです。ジャンルものとしてのツボは押さえていますし、ストーリー展開も、表面上は同じです。しかし、決定的に違うのは、それを現実的に描いている点。何度も出して申し訳ないのですが、昨年公開の『デス・ウィッシュ』では、自警活動をしていた主人公は、最終的に何のお咎めもなしに、ハッピーエンドを迎えています。それに対し、本作は上述のように、復讐をした主人公は、どんどん悪に堕ちていき、家族も無くしてしまいます。「復讐」の割に合わなさをきちんと描いている、ジャンルものの映画に対する批評的な内容になってるなぁと思いました。

 

 これに加え、上記のアクションの工夫とか、カメラワーク、後はテンポのいいストーリーなど、全体的にかなり完成度が高い作品なんじゃないかと思います。

 

 

同じ原作者のビジランテもの。比較してみると結構面白いです。

inosuken.hatenablog.com

 

 こちらは必殺仕事人。

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