75点
2013年に日本で公開された『シュガー・ラッシュ』の続篇。『シュガー・ラッシュ』は思うところが無いわけではないのですが、基本的には非常に完成度が高い秀作でした。その続篇なので、公開前から観ようとは思っていました。ただ、ヒットしていたこともあり鑑賞を後回しにした結果、鑑賞できたのは年が明けてからでした。なので、本作は2019年最初に映画館で観た映画です。
結論としては、キャッチ・コピーそのままに「ディズニー、ここまでやる!?」と思える作品で、『アナと雪の女王』から顕著になってきたディズニーのプリンセスの刷新を究極的なまでに突き詰めていました。ですが、その命題を描いたために前作からあった大切なことが抜け落ちてしまっていると思いました。
まず、1つ目の「ここまでやる!?」要素は何といってもインターネットの世界の再現です。ディズニーが金にものを言わせて築き上げた権利をフルに使い、MARVEL、『スター・ウォーズ』、ピクサー、等々が入り乱れる一大エンターテイメント世界を作り上げています。ディズニー帝国の強大さを改めて感じました。
「シュガー・ラッシュ:オンライン」 特別映像 (2018年)
それ以外でも、現実のインターネットの仕組みをそのまま街のギミックや施設に取り入れるアイディアもさすがだなと。検索からページに飛ぶことを公共交通機関になぞらえ、尚且つ容量が重いものを乗せるとスピードが遅くなったり、検索エンジンを上手く擬人化していたり、こういう点は相変わらず上手いです。
さて、本作はここ最近の「ディズニープリンセスの刷新」というディズニー的なことと、「自立した女性」という最近の世界の動向をかなり反映したものになっています。監督であるリッチ・ムーアは『ズートピア』にて、キャラクターにこんなことを言わせています。「女の子が歌って踊ってるだけで夢が叶う時代は終わったんだ。ありのままに」と。これはどう考えてもそれまでのディズニー・プリンセスたちがやってきたことを茶化していますし、それに倣うようにジュディは自らの意志で道を切り開いていきます。本作はこの傾向をさらに強めていて、これまでの「ディズニー・プリンセス的な」お約束を破りまくっていきます。話の舵は徹底して女性に握られているし、ヴァネロペがプリンセス「お約束」のミュージカルで夢を歌うシーンでは、背景はこれまでのようにカラフルで幸せいっぱいな場所ではなく、荒廃した『マッド・マックス』的世界であり、これまでのプリンセス像とは全く違う道を歩むと示します。
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このように、これまでのプリンセスという拘束から逃れ、自立するのはヴァネロペだけではなく、歴代ディズニー・プリンセスもです。終盤の展開がまさにこれまでの「ディズニー的」な展開を裏切るものになっていて、プリンセス達が総出で男(=ラルフ)を救います。ここはもう誰かが「ディズニー・プリンセス、アッセンブル!」と言ってもいいレベルの華麗なコンビネーションを見せてくれます。しかも最後にキス(しかもするのはカエル)で目覚めるのがラルフであり、この展開は、これまでの「王子様が救ってくれる」展開の完全な逆転です。ディズニー、ここまでやる!?
さて、このように「女性無双」な本作ですが、男性はどうかというと、まぁ完全に役立たずですね。同じ男としては何ともやりきれない気分なのですが、本作で男はトラブルを巻き、しかもプリンセスに執着するめんどくさい奴として扱われます。それを象徴するのがラルフ。彼は前作でヴァネロペを救った「ヒーロー」になりました。しかし、それが彼を支える自尊心になって、全面的にヴァネロペに依存します。だから彼女が自分の道を見つけたことに納得できないし、嫉妬もします。そしてその醜い感情が形となって終盤に現れるのです。あれは感情の醜さをそのまま再現したかのようなビジュアルで、とてもキモかったです。ラルフは、そんな自身の醜い感情と向き合ってヴァネロペの背中を押してやることで成長するのです。だから、本作は結構、「世の中にいる女性に対してこんな感情を持つ男性よ、もっと反省しな」という映画で、男性からすれば身につまされる気分になりますが、同時にちょっと説教臭いと思ったり。
このように、主張そのものは良いです。ただ、それによって疑問が生まれてしまいます。前作にあった「ルール」です。確かゲームでプログラム以外のことをした場合、そのゲームは「故障」と見なされて廃棄されるんじゃなかったっけ。ヴァネロペって「シュガー・ラッシュ」の人気(チート)キャラで、彼女がいなくなったら故障と見なされる危険性が上がるだけじゃなくて、ゲームもされなくなるんじゃないのかなぁと思ったりしました。こう考えて観ると、ヴァネロペが若干自己中に見えなくもないです。
以上のような疑問はありますし、内容も説教臭い気もしますが、やはり平均以上の面白さはある作品で、さすがはディズニーです。次にどんな作品を生み出すのか、とても楽しみです。
前作です。
作中で考察厨が言及していた作品。
inosuken.hatenablog.com