100点
「クリード」その意味は”信念”
『ロッキー・ザ・ファイナル』から9年。まさかのシリーズ復活作。前作で「ロッキーの物語」は完結しているため、主人公はロッキー最大のライバルにして最高の親友、アポロの息子アドニスになっています。しかし、鑑賞した方なら分かると思いますが、本作は『ロッキー』1作目の精神をそのまま受け継ぎ、尚且つ現代の若者へ向けて作られた作品だということが分かります。
私が精神を受け継いでいると特に思う点は2つ。1つは、アドニスがロッキーと同じく「自分の価値を証明する」話だからです。確かにアドニスとロッキーは生い立ちがまるで違います。方や取り立て屋で日銭を稼ぎつつ場末のボクサーをやっているゴロツキ、方や1流企業に勤めているエリート社員ですから。しかし、両者に共通しているのは、自分を信じ、その価値を証明しようとした点。ロッキーはアポロと戦い、「ゴロツキ」ではないことを証明しようとしましたし、アドニスは自分を「過ち」ではないと証明しようとし、その結果として「クリード」の名前を受け入れるのです。本作は「アドニス・クリードのオリジン」でもあるのです。「何者でもなかった男が何者かになる」ことは『ロッキー』1作目と同じ内容です。だからこそ、終盤でロッキーのテーマが流れ、アドニスが「新世代のロッキー」になったことを示すのです。「クリード」の名前を受け入れる時も、『ロッキー』のラストの台詞「愛してる」を上手く使って表現していて、本当に脚本が上手いなと唸らせられました。
また、このアドニスは我々、「若い世代」、つまり、伝説をリアルタイムで観られなかった人々を代表する存在です。我々のような後から生まれてきた人間は、過去の伝説を映像などでしか観ることができません。故に、アドニスがアポロ・クリードの影を追い、過去に投稿された動画を見てシャドーボクシングをするシーンは泣けてきます。彼も「伝説」の影を追う存在だからです。本作が素晴らしいのは、この「遅れてきた世代」が「新たな伝説を作る」話でもあるからです。
少し脱線しましたが、本作が『ロッキー』の精神を継いでいると思う点その2は、本作が「立ち上がる」話だからです。この「立ち上がる」はアドニスにも言えます。自らの価値を証明するためにリングに上がるのですから。しかし、本作でより「立ち上がる」のはロッキーです。彼はエイドリアンとポーリーという最愛の妻と親友に去られ、孤独に暮らしています。そこへやってきたアドニスにコーチをしますが、途中で病に倒れ、「早くエイドリアンに会いたい」とまで言います。そんな弱り切っている彼ですが、アドニスに鼓舞され(この時のランニングとウィリーが最高)、病と闘うため、そしてアドニスとリングで共に闘うため、再び「立ち上がる」のです。
以上のような2点から、私は本作が『ロッキー』の精神を継いでいると思うのです。
その他にも素晴らしい点は多くて、例えばアドニスのデビュー戦で、ワンカットで撮ったあの撮影方法とか、タイトルの出方とか、後は何よりスタローンの演技ですね。全編素晴らしいのですが、中でも白眉なのが終盤でアドニスが「証明する」と言った後の表情です。あの一瞬でロッキーはアドニスが自分と同じだと悟ったのだと分かる名演でした。