暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

アニメーションで映し出す残酷な世界【生きのびるために】感想

f:id:inosuken:20190106171246j:plain

88点

 

 

 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』を手掛けた、カートゥーンサルーン制作のアニメーション映画。第90回アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされた事でも記憶に新しい作品です。私も本作の存在については大分前から知っており、NETFLIXで配信されるとすぐにマイリストに追加していました。それでも鑑賞したのが12月と遅くなったのは、やっぱり他の劇場公開作品を観ることにかまけていたから。2018年の末になって時間を作ってようやく鑑賞しました。

 

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた [Blu-ray]

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた [Blu-ray]

 

 

 本作の舞台は2001年のタリバン政権下のアフガニスタン。描かれるのはひどい男尊女卑の世界。女性は働くことと学ぶことを禁止され、男性同伴では外出できません。つまり、女性は男性と一緒でなければ、生きることができないのです。本作の主人公は、そんな世界の中で、父親を連行された少女パヴァーナ。彼女は、「生きのびるために」髪を切り男装し、きつい仕事に就き、危険を冒します。父親が連行された今となっては、こうでもしないとまともに生きられないからです。

 

 このようにかなり残酷な現実を映した本作ですが、アニメーションという表現媒体で描くことで、その残酷さがいくらかは中和され、観られるものになっています。これが実写だったらかなりの勇気を要すると思います。日本のアニメーションとは違い、動きもやや少ないのですが、日常芝居も中々丁寧で、アフガニスタンの生活を少し知ることができます。

 

 さらに泣かせてくるのが、本作における「物語」の重要性。彼女たちは辛い現実を「物語」を読み聞かせることで現実を忘れ、一時の心の平穏を得ているのです。「本を読み聞かせたら罪」とされている世界で「物語が人を救う」ことを描いていることは制作側の非常に強いメッセージのようなものを感じます。

 

 ただ、そのように辛すぎる現実の中にも、救いはあります。分かってくれる人は分かってくれるし、助けてくれる友人もいる。辛い世界でも、フィクションとこのような善人がいるだけで生きていく助けになる。そんなことを考えた作品でした。