暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

シビアな世界を子どもの視点から描く【フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法】感想

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88点

 

 

 今は12月ですが、本作を鑑賞したのは実は7月。何故、こんなに書くのが遅くなったのか?それは、単純に私が書くのを忘れていたからだ!つい最近この失態に気付きました。素晴らしい作品だっただけに、こんなにまで遅れたことがちょっと申し訳なくなりますね。その謝罪の念も込めて、感想を書いていきたいと思います。

 

 本作は、隣にフロリダ・ディズニーワールドがある安モーテルに母親と2人で暮らす女の子、ムーニーちゃんの日常を描きます。本作は基本的に彼女の視点で進みます。この「小さい女の子視点」ということが本作では結構重要な意味を持ってきます。『ペンギン・ハイウェイ』でも似たようなことを書きましたが、子どもというのは、汚れている大人と違って世界を興味津々に楽しいものとして捉えています。『ペンギン・ハイウェイ』のアオヤマ君は実験大好きっ子でしたが、本作のムーニーちゃんはより「子供」です。彼女にとって、日々、友だちとやるイタズラや、道端でもらうアイスクリームは楽しくて仕方がないのです。その彼女の視点を具体化したように、本作は建物が非常にカラフルです。このカラフルさは、このモーテルが彼女にとっての「夢の国」であることを示していると思います。

 

 ムーニーちゃんにとっては楽しくて仕方がない日常ですが、大人たちからすれば、それは極貧生活です。ムーニーちゃんの母、ヘイリーは定職に就けず、素行が悪いという母親として大分問題がある人物です。ただ、本作の素晴らしい点は、彼女を「問題」として断罪していない点。彼女が定職に就けないのは何故かと言えば、彼女の素行の問題もあるのでしょうが、彼女の育ちの問題、そして、社会の側も彼女のような人間を「お前が悪いんだろ」と最初から排除にかかっていることがさりげなく示されます。生活保護の担当の人とか(※別にその人が悪いわけでもない)。ムーニーちゃんの様子を見ていると、母親も同じような生活をしてきたのではないかと思わせられます。だから、似たような状況から抜け出せないのです。子どもにルールを教えるのは親の仕事ですから。

 

 この家族を客観的に観ている我々と同じ視点を持つのが、ウィレム・デフォー演じるモーテルの管理人、ボビー。彼はこのモーテルを護る「夢の国」の守り人です。彼は彼女たちのささやかな暮らしを護っているのです。ただ、出来ることはそれくらいで、それ以上のことは見ているしかできないもどかしさも我々一般人と共有しています。

 

 本作の「マジカルエンド」ですが、これは結構残酷だなと思いました。彼女たちはああでもしないと辛い現実の世界から「夢の国」へ抜け出せないのですから。しかも、ということは、あの架空の、作り物の「夢の国」にしか彼女たちの逃げ場がないのですから。我々が見過ごしてしまいがちな、世の中の1つの側面を見せつけてくる作品でした。

 

 

同じく子役の演出が素晴らしい作品。描いていることも結構似通っています。

inosuken.hatenablog.com

 

 親子の物語。こちらは純粋に感動できる作品でした。

inosuken.hatenablog.com