暇人の感想日記

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最高の続篇【ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ】感想

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88点

 

 

 メキシコ麻薬カルテルとの「戦争」を描いた『ボーダーライン』の続篇。前作はエミリー・ブラントの視点に絞ることで、彼女のような「普通の人」には決して超えられない境界(ボーダー)を描きました。翻って、本作にはエミリー・ブラントは出ず、それどころか音楽のヨハン・ヨハンソンは死去し、前作の監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴは今や大監督。しかし、芯である脚本家、テイラー・シェリダンベニチオ・デル・トロジョシュ・ブローリンは残っています。監督次第ではこれは面白いぞと思って鑑賞しましたが、予想を上回る出来の作品でした。

 

 前作と大きく異なるの点の1つは、エミリー・ブラントが出演していない点。この情報を知ったとき、「何故なのだろう」と思っていましたが、映画を観て分かりました。前作が「ボーダーの向こう側」をボーダーの外から描いた作品でしたが、本作はその「ボーダーの内側」を描いた作品だったからなのです。前作はこの世界を我々に紹介するための作品で、本作はその「中」に我々をいきなり放り込む作品なのです。

 

 本作で描かれるのは、剥き出しの暴力の世界そのままです。それが「一般人」を介してでなく、当事者たちの視点そのままに送り込まれてきます。その暴力の描き方が、非常に新鮮なもので、且つ容赦がありません。例えば、冒頭の自爆テロ。カメラが横に動いて何の変哲もないシーンかと思いきや、我々の不意を衝くような自爆テロテイラー・シェリダン、相変わらず心臓に悪いです。同じように、本作では「予期せぬ暴力」が連続で出てきます。だから終始緊張感をもって観られます。また、それ以外にも予告で出てくるようなベニチオ・デル・トロの連射や、イザベル誘拐のときの車のシーンとか、素晴らしいものが多かったです。

 

 このような暴力を行使するのは、前作と同じくベニチオ・デル・トロジョシュ・ブローリン。ですが、本作では彼らの組織の中での相克も描かれています。暴力を行使していながらも、一向に状況は良くならず、しかもとある理由からデル・トロは組織から見放されてしまいます。ここから、デル・トロに世界の暴力が返ってくるのです。この因果応報ぶりはこの世界の無慈悲な現状を見せつけてくるようです。善悪などない、完全な暴力だけの世界。ですが、ラストのジョシュ・ブローリンが見せる矜持や、デル・トロが見せる前作とは違ったアレハンドロの側面。それらが少しの光となって、この暴力の暗闇に差し込みます。これが彼らの精一杯の抗いのような気がしました。

 

 さて、本作はベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロの映画でもあります。そしてそれが邦題の「ボーダーライン」の意味にもつながっていきます。本作で「ボーダー」を超えるのは2人。イザベルとヘクターです。彼らにとって、アレハンドロは暗殺者であり、疑似的な「父」です。彼らはそれぞれ、「ボーダー」を越えたことで成長します。ラストのシーンも、ヘクターが「あっち側」へ行ったことを意味していたと言えます。これは前作でエミリー・ブラントが絶対に越えられなかったことと対照的です。

 

 本作は前作との流れで、「ボーダーの内側」を描きました。そしてアレハンドロが次の「暗殺者」を育てるシーンで終わります。このラストの切れ味が素晴らしかったのですが、これは完全に次への布石で、次作はこの暴力のメカニズムとの戦いになったりするのかなぁと思ったりしました。このように、本作は3部作の2作目、つまり、ブリッジとしても最高の作品でした。

 

 

 前作の感想です。こちらも素晴らしかったです。

inosuken.hatenablog.com

 

 

 今年公開されたテイラー・シェリダンの脚本、監督作です。

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