暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

ストーリーは雑。でも観れてしまうくらいには面白い【ヴェノム】感想

f:id:inosuken:20181115003021j:plain

 

67点

 

 

 「スパイダーマン」に登場する人気ヴィラン、ヴェノム。本作は彼を主人公にしたスピン・オフ作品です。予告では散々「悪」であることを強調し、『デッドプール』よろしくダーク・ヒーローもののような雰囲気を醸し出していました。ただ、デッドプールは規格外ヒーローですが、本作のヴェノムは真性の悪(サム・ライミ版『スパイダーマン3』にちょろっと出てきました)。なので、「悪」である彼をどのようにして描くのか、が気になったので鑑賞しました。

 

 本作はアメリカでも大ヒットを飛ばしています。ですが、公開直後に米批評サイトRotten Tomatoにおいて、批評家と観客で評価が真っ二つに割れたことも記憶に新しいです。もちろん一般の観客と批評家では作品を観る視点が違いますから、これは観てみないと何とも言えないと思いました。で、鑑賞してみたところ、この評価の別れ方が大変納得できる作品でした。

 

 本作は所謂「バディもの」のオリジン的な内容です。社会的な正義に燃える記者エディ・ブロックが、宇宙から来たシンビオートのヴェノムと一体化し、世界の危機を救うというものです。しかし、本作ではそれが上手くいっていません。全ての描写が浅く、ストーリーが雑なのです。

 

 まず、主人公のエディです。彼は正義に燃えていますが、実は私たちのような人間と同じ側面があります。目の前で犯罪が起こってもただ見ていることしかできないし、マナーを守らない隣人に苦情を言うこともできません。さらに真実を追求する過程で、権力によって職を、自身の自業自得で恋人を失います。

 

 無職になった彼が出会うのがヴェノム。予告では散々「悪」であると強調されていましたが、観てみると「悪」というよりは「ワル」になりきれないヤンチャ坊主といった感じです。ただ、どうやら彼はシンビオートの中では「負け犬」らしいのです。

 

 本作はこのような2人の負け犬が力を合わせ、世界を救うという本来なら私が大好物な題材なのです。しかし、この2人の負け犬描写が浅いのです。エディは確かに職を失いましたけど、観ていると勇み足な感じは否めないし、恋人を無くしたのに至っては自業自得です。なので、彼の怒りが逆恨みにしか感じられません。まぁ、原作のヴェノム自体もスパイダーマンへの逆恨みから生まれたので、ひょっとしたらこれはそのオマージュなのかも?とか考えましたが、それじゃヒーロー誕生譚としてまずいと思います。

 

 でも、エディはまだいいです。具体的な描写がありますから。問題はヴェノムです。彼には「負け犬」描写が一切ありません。台詞での説明すらありません。自分で「俺は負け犬だった」と言っているだけなのです。これでは感情移入もへったくれもありません。また、コイツに関して問題なのは、ちょっとエディと付き合っただけなのに、地球を守る側についていること。「俺はここが気に入った」って、いや、アンタが地球に来てやったことってバイクで街を疾走したり少し飯食っただけじゃん。どこらへんが気に入ったんだよ!と突っ込みたくなります。さらに、シンビオート側のドラマは一切描かれないため、ヴェノムが敵とどういう関係だったのかも分からず、それがヴェノムの描写の浅さに繋がっています。そしてそれにより、バディものとしてのカタルシスも無いです。何の障壁も乗り越えてないし。こいつら。

 

 他にも突っ込みどころはあって、例えばあの研究所ですが、あのような重要機密を扱っているのに監視カメラ1つないのかよとか、最後の決め台詞の下りも、同じところを2回も襲うのかなとか、ヴェノムを捕獲しようとする際も弱点が分かっているのに何故その対策をしてこないのかとかです。

 

 このように、本作は全体としてはあまり出来がいいとは言えないと思います。おそらくこれが批評家受けが悪かった理由なのではないでしょうか。

 

 しかし、私は本作を「面白い」か「つまらない」かどちらか選べと言われたら、「面白い」を選びます。というのも、観ていると2人のコンビが息ピッタリであり、そのやりとりが面白いのです。これはもうキャラクターの勝利なのではないでしょうか。だってこのヴェノムは見た目に反して超いいヤツで、エディに恋のアドバイスをしたり、食欲を抑えられず何度もエディに止められ、それについてブー垂れています。完全にギャップ萌えキャラです。この「ヴェノムに愛着を持たせる」という意味では、本作は成功だと思います。

 

 大ヒットしているので続篇は確実にあると思われます。ラストからすると、続篇の敵は「アイツ」だと思われますが、だとすれば、スパイダーマンの参戦は本格的に必要になってくるのではないでしょうか。

 

 最後に。本作を観た次の日にスタン・リー氏が逝去されました。本作にも元気そうなお姿を見せていたため、訃報を耳にしたときは驚きました。素晴らしい作品をありがとうございました。