暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

「全編PC画面」の設定をフルに活かした秀作ミステリー【search/サーチ】感想

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92点

 

 

 『クレイジー・リッチ』と同じく、キャストの大半がアジア系で占められている本作。キャストがほとんどアジア系。これだけでも大変画期的な作品ですが、本作のそれ以上に画期的な点は、「全編PC画面のみで進む」という点でしょう。最初にこの映画の存在を知ったときは確かに意欲的な作品だと思いました。しかし、正直に言えばそこまで期待はしていませんでした。この手の作品は手法こそキャッチーですが、大抵はそれは「手法」だけで終わっていて、その作品のテーマやストーリーと上手くリンクしていないケースが多いからです(若しくは時が経つにつれて陳腐なものになっていく)。ただ、予告編で町山智浩さんが褒めていたし、評判も良いので鑑賞した次第です。

 

 とても面白かったです。観る前に危惧していた「設定とストーリーの乖離」は全く感じず、与えられた設定をフル活用して作品のテーマを描いていました。

 

 「作品のテーマ」としては、父と娘の絆の回復です。それを失踪事件を追う流れで見せていきます。何故、この2人の絆が途切れ気味なのか。それは母親の死です。冒頭に映される、家族のモンタージュが本当に素晴らしいです。必要最小限の情報で我々に彼らがこれまでどのように過ごしてきたのか、そして、母親の死からの映像が無いことで、それ以降は交流が途切れ気味であることがはっきりと示されます。素晴らしい出だしです。

 

 この親子の絆が途切れがちなことも、「PC画面」をフルに使って描きます。代表的なのは会話です。PCなのでTV電話とかがあるのですが、それ以上に使われるメッセージが効果的です。「発進した文章」と「書きかけて削除した文章」を両方映すことで、「本音」と「建前」を視覚的に我々に理解させています。しかもこの行為そのものがラストで感動ポイントとして効いてくるという抜け目のなさ。そしてこの2人の絆の結末を、冒頭から出ていたデスクトップの壁紙の変更で表現するという確かにPCならでは、且つ映画的な演出で表現しています。ここは舌を巻きました。

 

 さて、本作は失踪した娘を探すというミステリーです。ミステリーと聞けば、聞き込みや現場検証など、足を使って操作をする姿が思い浮かびます。本作は、この「捜査」も、PCならではの手法で描きます。具体的には、マウス、クリック、google検索を丁寧に見せることで捜査の「過程」を分かりやすく見せています。そして、どれだけ調べたかという「結果」がデスクトップ上に貼られた量で視覚的に一発で分かるようにしているところも凄いなと。

 

 しかもこの設定上、映るのは主人公視点のみのため、真犯人の状況が一切映らないことの理由になっています。これは少しズルい気がしますけど、よくよく考えてみれば真犯人は画面上に何回か出てきたのでこのアンフェア感を中和しようとはしていたのだろうなぁと思わせられます。

 

 また、ミステリーとしての情報の出し方も結構フェアで、真犯人に繋がるものもしっかりと画面上に出てきています。なので、画面に気を配れば、主人公よりも先に真犯人に辿り着けるかもしれません。ただ、これによって、中盤のあの事件によって真犯人が危機に陥らなかったことに少し違和感が生じるのですけど。観ている間は気になりませんでした。

 

 さらに、PC画面によってサスペンス性も強まっています。中盤、主人公がある人物と対峙しているときにかかってくる電話も、PCにかかってきているため、主人公が気付かないのも納得がいきますし、画面上に着信が出るので、視覚的に「電話がかかってきている」ことが分かり、「早く出ろ」と観客の不安を煽るのです。これはPC以外だと難しい演出だと思います。

 

 このように、本作は「全編PC画面」という奇抜な設定をストーリーに上手く馴染ませた作品だと思います。ミステリーとしてもフェアだと思いますし、私はかなり面白かったです。疑問に思ったこととしては、話が中盤大きく動くのですが、そこで「全編PC画面」という設定に少し無理が生じてきたことですかね。でも許容範囲です。面白かった。