暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

「YELLOW」は美しい色【クレイジー・リッチ!】感想

f:id:inosuken:20181102143136j:plain

 

80点

 

 

 ハリウッド初のキャストが全てアジア系である本作。これまで、ハリウッドの中でのアジア人とは、ごく一部の例外を除き、型通りの存在としてしか描かれてきませんでした。

 

 しかし、時代は変わりました。人種差別、性差別的な風潮は律されるようになり、その影響で従来では考えられないような作品(『オーシャンズ8』『ムーンライト』等)も生まれました。そんな中制作された本作は、我々アジア系としては、「待ってました!」と言うしかない映画でした。

 

 まず、冒頭から長い間感じていた留飲を下げることができます。所謂「欧米人が占有していた世界を、アジア系の人間が塗り替える」というものです。本作はここから始まり、近年存在感を増してきたアジア諸国のように、金持ちなアジア人たちの世界が繰り広げられます。出てくる衣装、美術が大変ゴージャスで、それらを観ていても楽しいのですが、やはりシンガポールの美しさ、そして出てくる食べ物の美味そうな感じと言ったらありません。これだけでシンガポールに興味が湧き、行ってみたくなります。

 

 また、登場人物たちは全員が金持ちです。そしてタイトルが『クレイジー・リッチ』なので、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』的なクレイジーな豪遊なのかと思うかもしれませんが、結構違います。「全然」と書かなかったのは、似たようなことをしている人もいるからです。連想されるのは『こち亀』の中川みたいな感じですね。ただ、ここで出てくる金持ちたちは、由緒正しく、先祖代々続き、積み上げてきた結果金持ちになった人たちであり、決して「小金持ち」ではなく、むしろ富豪と言った方がしっくりきます。この辺の描写の誠実さも新鮮です。

 

 このように、本作は「金持ちなアジア系」を偏見を持って描くのではなく、きちんと彼らにも歴史と伝統があるということを誠実に描き、尚且つそれがアメリカで大ヒットを飛ばしているという記念碑的な作品なのです。日本ではあまり話題になっていませんが。

 

 とまぁこんなことを書きましたが、話は非常に単純。庶民の女性がスーパー金持ちと恋に落ち、様々な嫌がらせを受けるも、それに必死に戦い最後には幸せをつかむという、要は王道のシンデレラストーリーです。ただ、本作ではそれを現代的にアップデートしています。

 

 まず、ラストのプロポーズからして良いです。「上流階級」が上から申し込むのではなく、きちんと対等な立場に立って申し込むというもので、冒頭とラストの見事な対比も素晴らしいですが、やはり「王子様が救ってくれる」ではなく、「王子様が対等になろうとする」姿勢は現代的です。また、それ以外でも、主人公以外にも複数の女性にフォーカスを当て、それぞれ別の結末を見せるも、それがきちんと自立している女性として描いています。そして、そのラストで流れる「YELLOW」これは「卑怯」など、マイナスなイメージで語られることが多い(『デトロイト』のシーンが最近では印象的)「YELLOW」を肯定的に描いたもの。これが流れることで、本作の歴史的な意義が再認識され、とても感動できます。

 

 このように、本作はアジア系、女性など、これまで映画の中で軽く扱われがちだった存在をきちんと描いた歴史的な作品だったと思います。