暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

善悪の境界なき戦場【ボーダーライン】感想

f:id:inosuken:20180929004020j:plain

 

90点

 

 

 今、乗りにのっている映画監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴ。そして、同じく今乗りにのっている脚本家、テイラー・シェリダン。彼らが2015年に制作した作品です。前から観たいと思っていたのですが、例によってズルズルと先延ばしにしていました。しかし、11月に続篇である『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』が公開されるということで、NETFLIXで鑑賞しました。

 

 邦題の「ボーダーライン」とは、「境界線」の意味です。この境界線はどこにあるのかと言えば、主人公ケイトと、無法地帯であるエルパソで活動する人間たちの間にです。

 

 エミリー・ブラント演じる主人公ケイトは、我々観客と視点を共有している分身です。彼女はFBI捜査官として様々な犯罪者と戦ってきました。本作はそんな彼女が麻薬カルテルを壊滅させる助っ人としてエルパソに呼ばれるところから始まります。しかし、そこで彼女が体験するのは、これまでの彼女の経験からは考えられないような捜査の連続です。警察は基本的に敵だと思えだとか、犯人は見つけ次第即射殺するわ、取り調べ中に秘密裏に犯人を拷問するわ、やりたい放題です。何故、彼らがこのようなことをするのかと言えば、敵も同じような連中だからです。正攻法で戦ったとしても、警察は買収されているからまず頼りにならないし、かといって個人で戦えば恐ろしい報復が待っています。なので、「目には目を」の精神でこのような捜査に出ているのです。

 

 ここまで書けば、本作は「必要悪」の話で、ケイトは試練を乗り越えて、ベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロに感化される話になるのかな?と思われます。しかし、本作に関してはそんなことはありません。この2人は、決して境界線を越えず、交わらないのです。

 

 邦題の話をしましたが、本作の原題は「Sicario」。訳は「殺し屋」です。これはアレハンドロを指しています。とにかくベニチオ・デル・トロが最高でした。中盤までは得体の知れない彼ですが、正体が明らかになると、物語は一気にフィクション度が高くなり、ちょっとしたアクション映画みたいになります。しかし、彼の以前は検事だったという過去が明らかになると、彼がケイトと合わせ鏡のような存在だったことが示されます。つまり、彼は元々は法を遵守する人間だったのが、家族を殺されたことで、「ボーダーライン」を超えてしまった存在なのです。これは最後まで境界を越えられず、終始蚊帳の外にいたケイトとは対照的です。

 

 ラストは、一応の決着は着き、溜飲が下がる形になりますが、そこからのラストシーンが強烈です。遊んでいる子供たちが銃声を聞いている。その画面に浮かぶ「Sicario」の文字。皮肉が効いていて、素晴らしいラストでした。あの地獄は、今もどこかで続いている。