暇人の感想日記

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青春時代の関係って、本当に不誠実だよね【きみの鳥はうたえる】感想

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86点

 

 

 予告は観ていましたが、最初は完全にノーマークで、観る気はありませんでした。しかし、『寝ても覚めても』を観ようと思ったとき、カンヌに出品された『寝ても覚めても』を観て、同じく小規模公開である本作を観ないのは何か違うのではないか?という謎の使命感にかられ、『寝ても覚めても』と共に鑑賞してきました。

 

 素晴らしい青春映画でした。いつか絶対に終わってしまう時間だけれど、過ごしている間は永遠に続くと思える時間、すなわちモラトリアムの中で生きる若者3人を描きます。

 

 本作は本屋でアルバイトをしている「僕」が同僚の佐知子と仲良くなることから始まります。その後は、この2人に静雄を加えた3人がただ日々を過ごす姿が映されます。そこでは劇的なことは何も起こりません。3人でコンビニ行ったり、酒飲んだり、アルバイトしたり、建物の置物を盗んだり、何てことのないものばかりです。この時の3人の演技が自然体で、観ていて演技だとはとても思えません。また、会話をしている時の撮り方が面白いです。普通は会話をしている人間全員を映したりするものだと思うのですが、本作では1人の人物に焦点を当てて会話のシーンを撮っているのです。なので、残り2人は会話の声しか聞こえず、観客はアップで映っている人物の表情の変化を追うことになります。ただ、これによって、その会話から映っている人物が何を考えているかが分かって、本作が持つ重要な要素、「不誠実さ」が出てくると思います。

 

 本作には、何回か「誠実」という言葉が出てきます。「僕」が万引きを見逃したときに同僚が言う「不誠実だな、お前」と、冒頭の「僕」と佐知子の会話でです。「誠実に生きる」ことはとても大事です。友達に嘘をつかず、悪いことをしたら正直に謝る、誰にでも優しく接する等々。劇中でも同僚が「誠実たろうとする人」として出てきます。そして主人公3人組も表面上は互いを理解しています。ただ、それで誠実かと言われたら、それは全然違って、互いに都合の悪い点から目を背けているのです。静雄は「邪魔じゃない?」と気を使っている風な感じですが、佐知子から呼ばれたら行くし、佐知子も佐知子で「曖昧なのは嫌いだから」とか言いつつ、曖昧なままなぁなぁでつるんでるし、「僕」も佐知子への自分の気持ちに目を背けて生きています。また、彼らはこの時間が永遠に続くことはないと分かっているのに、それにすら目を背けて生きているのです。彼らは皆「不誠実」なんだなぁと。

 

 そんな「不誠実」な彼らですが、その生活にも終わりがやってきます。3人は離れ離れになり、関係にも変化が訪れます。そのとき、「僕」が曖昧だった気持ちを「ハッキリさせ」モラトリアムが終わったときに映画は終わります。アイコン的なものは何もないですが、素晴らしい青春映画でした。