暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

現実か夢か【寝ても覚めても】感想

f:id:inosuken:20180921114747j:plain

 

86点

 

 

 『万引き家族』とともにカンヌ国際映画祭に出品されたものの、話題は完全にパルム・ドールを受賞した『万引き家族』に持ってかれた感がある本作。ですが、曲がりなりにもカンヌに出品された作品。観たくなるのは人情というものです。なので、『きみの鳥はうたえる』と連続で鑑賞してきました。

 

 タイトルの『寝ても覚めても』はそのまま、「夢と現実」だと思います。本作は、顔が全く同じながらも、性格が全く違う「麦」と「亮平」の間で揺れ動き、中々地に足がつかない女性、朝子が自己を曲がりなりにも形成していくまでを描きます。

 

 「麦」と「亮平」はそれぞれ東出昌大さんが演じています。この2人は、東出昌大さんの魅力を見事に分割した役だと思います。

 

 「麦」は「何を考えているのだかよく分からない東出昌大」です。彼は変わった存在で、話し方は淡々としてるし、行動は読めないし、表情も変化しないなど、現実感がありません。それは服装にも表れていて、彼は終始「白」の服装を着ていますし、着こなしにも現実感がありません。これは意図的で、2人の出会いを聞いた麦の友人が「そんな出会いあるわけないだろ」と突っ込んでいます。麦と過ごした時間は、「夢」なのです。だからこそ、序盤で彼がいなくなり、舞台が東京に移ってからは、彼と過ごした時間が「夢」のように思えてきます。中盤まで大阪篇で出てた人が全く出てこないこともそれに拍車をかけています。

 

 「亮平」は「良い人な東出昌大」です。彼は麦とは対照的で、誠実で優しく、不安定な朝子を抱擁してくれる寛容な心を持っている完璧超人です。これはこれで現実感がありませんが、こちらでは大阪篇と違って「現実」感が強い印象です。学生ではなくて仕事をしているという点がそれを強めているのかも。

 

 ここで、「現実感」といえば、朝子と亮平、麦には現実感があまりありません。ですが、それを補うように周囲の人間にはリアリティがあります。くっしーとマヤや、春代のミーハー感とかは、観ていて微笑ましくもあり、親近感を抱かせます。

 

 朝子はそんな彼と共に「現実」を生きようとし、ボランティアをしたり、就職を考えていきます。しかし、その最中にやってくる「夢」である麦。それからの朝子の行動は決して褒められたものではないですが、中盤までは明らかに麦を引きずっていた感があるため、あの決着はちゃんと対面して着けなければならなかったのでしょうね。これを乗り越えた後の、ラスト。2人が清濁合わさった川を並んで眺めている姿は、決して綺麗なだけではない恋愛や人生を(愛し合わずとも)共に眺め、生きていこうというラストに思えました。