暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

フェミニズムを盛り込んだ娯楽時代劇【駆込み女と駆出し男】感想

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81点

 

 

 原田眞人監督作品。『検察側の罪人』に合わせて、監督の作品をいくつか観ておこうと思い、評判のいい本作を鑑賞しました。井上ひさしの『東慶寺花だより』を原案に、縁切寺に駆け込んだ女性たちと、医者になったばかりで、戯作者にも憧れている「駆け出し男」信次郎を描いた作品。率直な感想として、とても面白かったです。

 

 本作の舞台は幕府公認の縁切寺東慶寺。なので、話は離縁を持ち出してきた女性たちをどうやって旦那と別れさせるかがメインの1つとなります。こう書くと、女性は「護られる立場」なのではないかと思うかもしれません。ですが、本作の秀逸な点は、「ヒーローが女性を救う」話ではなく、「救われた女性が自立する姿」までをしっかり描いている作品だという点です。

 

 東慶寺に駆け込む女性の中で、主に3名の女性に焦点が当てられます。じょこと、お吟、そして戸賀崎ゆうの3人です。それぞれには三者三葉の事情があり、その違いが物語に厚みをもたらしています。それぞれについて見ていきましょう。

 

 まず、戸田恵梨香演じるじょごですが、彼女は本作においてメインヒロイン的な役を見せ、大泉洋演じる信次郎と徐々に絆を深めていく様子が本作の芯になっています。彼女はDV夫から逃れてきた女性で、顔に火傷の跡があり、「醜い」と言われ、それがコンプレックスとなっています。この「顔」のコンプレックスの克服が自己肯定に繋がり、最後には恩人である信次郎と対等の立場となります。このじょごの心境の変化による男女の力関係の変動(夫に着いて行くしかなかったじょごが、最後には信次郎を引っ張る存在となる)は、本作の女性の自立をそのまま体現していると思います。

 

 また、元夫も最初こそ最悪な人間でしたが、最後には更生して復縁を申し出たりします。この一面的に人間を描かないあたりも好感を持てます。そして、だからこそ、じょごが「自分で決める」面が強調され、より自立の面が強まります。

 

 次に、満島ひかり演じるお吟。彼女も夫から逃げてきた1人ですが、その事情はじょごやゆうとは正反対です。この両者の違いが、本作の「男性」を一面的な悪にせず、かなりフラットな描き方にしています。

 

 最後に、内山理名演じる戸賀崎ゆう。彼女の場合は、本当に夫が最低な奴で、この夫が「悪」的な側面を一手に引き受けています。

 

 このように、本作は男性を単純に悪として描かず、多面的に描き、それでも女性自身が自らの力で未来を掴んでいく様を描いているのです。

 

 また、本作は時代こそ江戸ですが、内容的には現代と符合する点も多くあります。上述の女性の自立もそうですが、質素倹約令が出され、全体的に不寛容な雰囲気が醸成されている感じとかもそうです。時代劇とは、「時代を過去に移し、そこに現代的な問題を反映させる」ものだといいます。だとすれば、本作は真の意味での時代劇だといえます。娯楽作品としてもとても面白いで作品でした。