著者:てらさわホーク
出版社:株式会社 洋泉社
「あなたはどのアクション・スターがお好き?シルヴェスター・スタローン?ジェイソン・ステイサム?ドウェイン・ジョンソン?まさか、ジャン=クロード・ヴァン・ダム?」
「いや・・・」
「俺はシュワルツェネッガーでいく」
このような、筆者であるてらさわホークさんの、シュワルツェネッガーに対する圧倒的な熱量が伝わってくる本書。私は平成生まれであるため、物心ついたときには、もうシュワルツェネッガーは落ち目になってきていました。なので、アーノルド・シュワルツェネッガーについてはざっくりとした経歴しか知らず、また、出演映画も観たことがあるのが『ターミネーター』2作と『コマンドー』『ラストスタンド』の4本しかない「シュワルツェネッガー弱者」でした。
そんな私が何故本書のようなシュワルツェネッガー愛に溢れた書籍を購入したかというと、偏にシュワルツェネッガーという男について知りたかったからです。彼はキャリア全盛期に流行っていた、「マッチョな男が銃を乱射したり建物を片っ端から爆破して、最後には悪を倒す」という大味なアクション映画(もちろん、違うものもあります)のアイコン的な存在です。そして同時に、80年代を代表するアクション・スターであることに異論がある人間はいないと思います。なので、映画史的にも結構重要な存在なのかもしれないと私は思っています。
そんな存在である彼に対して、私は表面的な知識しかありません。「何故彼は俳優になろうと思ったのか?何故彼はここまでの人気を得たのか?」これらを具体的に知りたいと思いました。
感想として、本書を読むことで、上記の疑問以上の「アーノルド・シュワルツェネッガーという1人の男」について知ることができました。少年時代は優秀な兄、そして俳優になってからはひどい訛りというコンプレックスを、持ち前の筋肉とアクションでねじ伏せ、そのアクションが成功してからはコメディに手を出しまた成功。こうして順調にキャリアを重ねていくサクセス・ストーリーは読んでいてとても面白かったです。
ただ、もちろん、これらの成功は皆知っていること。私が興味深かったのは、その裏にあったシュワルツェネッガーの考えです。彼は、自らが売れるために「今、何をすればいいのか?」を常に考え、それを行動に移してきました。だからこそのアクション映画への出演なのでしょうし、そしてコメディへの路線拡大だったのです。そこには、彼が持っていた「有名になる」「上りつめる」という野心が見えます。キャリアの絶頂期には、彼はスターとして完璧な存在だったのでしょうね。
そして、本書はサクセス・ストーリーとしてではなく、そこからの転落の物語としても読んでいて面白かったです(不謹慎な書き方かもしれませんが)。その人気凋落の原因が、彼が持っていた野心であるという点も興味深いです。『ラスト・アクション・ヒーロー』の過剰な宣伝がこの肥大化した野心が具現化したものに思えてきます。そこから州知事時代を経て、果ては大統領かというときに自らの行いが裏目に出て転落。ここまでの彼の成功のツケが回ってきたようです。こういう因果を感じるところも面白かったです。
また、本書はこれらのシュワルツェネッガーの人生をターニングポイントとなる作品を解説しつつ語っていきます。それには絶賛評も多くありますが、著者のシュワルツェネッガーに対する忸怩たる思いもちょいちょい出てきます。これが出てくると、本文にも微妙に毒が入ってくるのが面白い。
とりあえず、これ1冊でアーノルド・シュワルツェネッガーという俳優の「これまで」を知ることができました。とりあえず、『トータル・リコール』を観たくなりましたし、『コマンドー』を観返したくなりました。