暇人の感想日記

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「個人の正義」から今の日本社会の問題をあぶりだしたエンターテイメント【検察側の罪人】感想

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94点

 

 

 はじめに

 木村拓哉二宮和也の二大スターの競演が話題の本作。「ジャニーズの2人が主演」ということで、「アイドルムービーなのでは?」と、どことなく敬遠される気がする本作ですが、木村拓哉二宮和也の2人のそれぞれ正反対の素質を持った「役者」としての面を存分に引き出すことに成功していて、異なる「正義」のぶつかり合いをサスペンス的に描いた超一級のエンターテイメント作品となっていました。

 

 

「役者」木村拓哉二宮和也

 本作の軸は最上と沖野という、2人の検事が持つ異なる正義のぶつかり合いです。なので、映画そのものが自然とこの2人に焦点が合うため、主演の2人を輝かせることになります。なので、自然と「二大スター映画」となるのです。ただ、これは2人に華はもちろんですが、観客を引き付けるだけの演技力が無ければ映画そのものが台無しになってしまいます。そこを言えば、木村拓哉二宮和也はそれにに対して完璧に応える演技をしていました。

 

 木村拓哉と検事。これだけ聞けば、真っ先に思い出すのは『HERO』の久利生公平。ですが、本作では久利生とは全く違い、自らの正義の下にだんだん墜ちていくノワール作品の主人公のようです。

 

 対する沖野役には、現在、男性アイドルグループではトップである嵐の二宮和也。「完璧な人間」に見える最上とは違い、こちらはどことなく甘さが見える人物を演じています。

 

 話の核は、松倉を有罪にするか否か。松倉は言うなれば「吐き気を催す邪悪」。見た目もそうですが、過去に犯したおぞましい犯罪は許しがたいものがあります。しかし、それらはもう時効になってしまって裁けない。最上は過去の因縁から、松倉を有罪にしようと自らの「ストーリー」に固執していきます。対する沖野は、最初こそ最上に心酔していましたが、徐々に彼に疑問を抱き始めます。

 

 本作はこれを原田監督お得意の膨大な台詞量、そして原田遊人さんの独特の編集を以て、異様な緊張感で見せていきます。

 

 

「個人の正義」から今の日本社会の話へ 

 このように、本作は「個人の正義」の話でありますが、話が進むごとに彼らの対立が、この日本社会そのものに対する疑問となって提示されていきます。それは「正しきこと」が封殺されていく現状です。「時効の壁で松倉を裁けない」ことは「正しきこと」が行えない最も具体的な要素です。

 

 また、それ以外の点では、丹野のエピソードがあります。実在の某右翼団体を彷彿とさせる高島グループの目論見を阻止しようと動くも、彼らに嵌められてしまい、世間も敵に回ってしまいます。世間、若しくは組織が彼の「正しきこと」を封殺したのです。これは今、日本では至る所で起こっています。日大のラグビー部の件しかり、現在起こっている体操女子の件しかり、伊藤詩織さんの事件しかりです。本作には、これらを思わせる話が、本筋以外で、画面に映されています。最上は、これに対して、「引くな引くな」というシーンがあります。最上は、こうした欺瞞や偽善を暴こうとする「正義」を持っているのです。

 

 

体制が人を殺すということ 

 しかし、最上は最上でこの「正義」に固執するあまり、冒頭で言っていた「検察の暴走」をしてしまうのです。そしてこれによって、結果として2人の人間を非合法に殺してしまいます。どちらも救いようのない罪人だったとはいえ、法治国家である日本では、個人の殺人は認められません。ここで思い出されるのが、序盤で語られ、作品全体に影を落とす「インパール作戦」です。これも体制が無謀な作戦を立てて、結果として多くの人間を死に追いやった愚行でした。これらは人数こそ違いますが、「体制側が人を死に追いやった」という点では共通していると思います。

 

 さらに、この最上の行いのような「検察の暴走」が、「自らのストーリーに固執した」結果起こったものだというのも興味深いです。今でも、政治の面だけ見ても「自分の都合のいい情報しか信じない」人が増えています。私はこれを思い出しました。

 

 以上のように、最上は自らの正義に固執し、犯罪を犯してしまいます。確かにそれは許される事ではありません。道義的には沖野の方が「正しい」です。しかし、最上がやろうとしたことは、世の中の欺瞞や偽善を暴こうとしたことであり、そこは称賛できます。「世の中には100%の善人もいなければ、100%の悪人もいない」劇中の橘の台詞です。これが全てを説明していて、だからこそのあのラストなのでしょうね。「結末」を見せず、あえて観客に委ねる。ミステリーとしては半端な着地でしたけど、本作の「正義のぶつかり合い」の要素から見れば、ここしかない着地だったと思います。

 

 

おわりに

 他にも、役者陣は全員素晴らしい演技だったとか、美術とカメラワークとか、他のスタッフの仕事も完璧だったとか、良かった点は無数にあります。観てよかったと思える作品でした。