暇人の感想日記

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素晴らしいジュブナイル映画【ペンギン・ハイウェイ】感想

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80点

 

 

 『フミコの告白』『陽なたのアオシグレ』の石田祐康監督。彼の初長篇監督作。この情報を知ったとき、とても嬉しく思ったことを覚えています。彼のことは昔から知っていて、「いつ長篇作るのかなぁ」と思っていたので。なので、応援の意味を込めてムビチケを買い、時間も合ったので、初日に鑑賞してきました。感想としては、とても面白かったです。

 

 子どもにとって、「夏」は特別なものです。基本的に夏休み中であるため、その期間そのものが普段とは違う異質な雰囲気に満ちています。だからこそ、普段とは違う「何か」が起こる予感があり、それが「一夏の成長物語」モノを作らせる原因なのでしょう。本作『ペンギン・ハイウェイ』も、この「一夏の成長物語」に分類されるものです。

 

 本作の主人公は、小学4年生のアオヤマ君。彼は自分で自分を「とても頭がよく」と言うほどの秀才で、日々、感じたことをノートにびっしりメモしています。そのためか、年齢に対しては不相応な知識を有しており、また、分からないことがあった場合には、自ら実験し、実証しているという理系少年です。

 

 このように「とても頭が良い」アオヤマ君ですが、彼には知らないことがたくさんあります。彼は海を見たことがありませんし、劇中では、住んでいる街を出ません。そして彼にとって最も興味ある対象が歯科医の看護師である「お姉さん」と、彼女が持つおっぱいです。確かに、あの年頃の少年にとって、「お姉さん」という存在は不可思議です。周りの女子とは明らかに違うためか、憧れの対象です。本作におけるアオヤマ君のお姉さんへの気持ちはどう見ても恋ですが、理屈の塊であるアオヤマ君は、まだそれを自覚できていません。そうした複雑な気持ちがあるからこそ、お姉さんについてのノートは、「枠にはめられない」存在です。

 

 本作は全編を通して、このアオヤマ君の視点から語られています。そのため、上述の気持ちに感情移入でき、もどかしい気持ちにさせられます。そしてさらに、この視点によって、過去に自分が持っていたであろう、世界の謎へのワクワク感を思い出させてくれます。少年の頃というのは、まだ世界のことを何も知りません。故に、世界そのものが希望に満ちたものに見えます。全てが謎なのです。大人になるにつれて「常識」を身に付け、世界をクソだと思うようになるのですが、子どもは違う、と思います。大したことない発見も大発見ですし、大人が当たり前だと思っていることに対しても、本気で怯えたりします。本作で言えば、「死」について。私もあれくらいの頃にあんなこと考えました。こう考えると、本作でアオヤマ君がやっていることは、誇張があるだけで、我々とほとんど同じと言えます。

 

 他にも、街の地図を作って探検したり、ガキ大将が出てきて、最後には協力してくれたりと、王道展開もたくさんあります。だから、子どもが観ても面白いと思います。

 

 また、本作は森見登美彦先生の原作ですが、石田監督の過去作と比べると、驚くほど相似点が多く、まるで彼のために用意された作品のような気すらしてきます。例えば、本作の「初恋」の要素。石田監督は『フミコの告白』では告白を、『陽なたのアオシグレ』では本作と同じく「初恋」を扱っていました。そして、本作には、石田監督お得意の「疾走シーン」まであります。ここは信頼しているスタッフを呼んだそう。なるほど。そして欠かせないパンモロ。今回は中々ないから、どこで入れるのだろうと思っていたのですが、まさかあんな形で入れてくるとは。

 

 一連の騒動が終わり、お姉さんと別れたアオヤマ君。彼はこの経験で、「大人」に近づいたはずです。そして、これからもこの調子で色々な事を知って、大人になっていくのでしょう。これが自分と重なってきて、これからの彼のことを想像したら、泣けてきました。俺にもこんな時期あったのかなぁと。

 

 このように、本作は、観ていると大人は自身の子どもの頃を思い出せるし、子どもはリアルタイムですから、普通に楽しめるという、まさに家族向け映画なのかなぁと思いました。