暇人の感想日記

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滑稽だけど背筋が寒くなる映画【スターリンの葬送狂騒曲】感想

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75点

 

 

 スターリンが死んだことに端を発する、側近達の権力闘争をコミカルに描いた喜劇。最初は笑いながら観ていられるのですが、ストーリーが進んでいくにつれて、だんだんと物事の本質が見えてきて、最終的にはちょっと背筋が寒くなる作品でした。

 

 喜劇というのは不思議なものです。観ている間は笑っていられるのですが、こういう中身は深刻な作品を描く場合だと、シリアスなトーンで撮った場合とは別の角度から、物事の本質を抉り出してしまいます。本作でもそれはいかんなく発揮されています。

 

 本作で行われていることは、「スターリンの死後、誰がトップに立つのか」という権力闘争です。しかし、それは『ハウス・オブ・カード』のように心理戦や、人脈作り、駆け引きの応酬をダーティながらも一種のカタルシスを以て描くのではなく、非常に滑稽に描いています。これは配役にも表れていて、本作における(一応の)勝者、フルシチョフを、スティーブ・ブシェミが演じている点。これがケヴィン・スペイシーならばやり手の男を想起させますが、彼の場合、申し訳ないですが、想起してしまうのは『ファーゴ』のような小悪党です。他の役者も、どこかとぼけた感じや、優柔不断な印象を受ける人間ばかりです。また、登場シーンがどれも大仰な音楽と共にスローモーションで入ってくるという演出で通されていて、これが繰り返されることでどうにも笑ってしまいます。これによって、権力に群がっている人間そのものを滑稽な存在として具体化させていると思いました。

 

 このように、演技や登場の仕方も滑稽ですが、劇中でやっていることも滑稽です。何かを決定する下りなどはさながら学校の学級会議のようで、ちまちました嫌がらせや、空気を読んだ挙手や発言を度々行い、自分が嫌な役に決まった時などはしかめっ面で「マジかよ」みたいなことを言ってたりします。また、スターリン亡き後に着々と次の権力の座を狙っていた男が、生き返った途端に手の平を返す下りなども笑えます。

 

 本作には滑稽なだけではなく、冒頭には強制収容所のシーンもあり、スターリン、及びこの側近たちが何をしてきたか、を端的に映しだしています。また、医者を収容しすぎて良い医者がいないとか、レコードを聴きたいといったスターリンに慌てふためく一市民なども描写されます。これらはそれぞれ、コミカルに描かれているのですが、冷静に考えれば、恐ろしいこと。何故観られるかといえば、喜劇という衣を身に纏っているからです。このように、本作は、シリアスにやればおぞましい内容を、喜劇という衣に包んで描くことで、その本質を描き出していると思います。

 

 本作はラストも秀逸でした。「一市民」の上に「権力者たち」がいるという支配構造を具体的に描いただけではなく、フルシチョフをブレジネフらしき人物が一瞬見て、遠くを見るというもの。これからも、あの滑稽な権力闘争が続いていくことを端的に表した名シーンだと思います。