暇人の感想日記

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前作と比べ、監督の個性がいい意味で薄れた娯楽作【インクレディブル・ファミリー】感想

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82点

 

 アクの強い人格でありながら、その天才的な手腕で名作、良作を生み出しているブラッド・バード監督。彼の最新作は、何と14年前の監督作『Mr.インクレディブル』の続篇でした。前作はヒーロー映画を中年の危機を交えつつ完璧に作り、尚且つ自身の作家性も盛り込んだおよそ欠点がない作品でした。対して本作は、その監督の個性を薄め、さらに前作の多くの要素を現代的に調整した、現代の娯楽作として申し分のない出来の作品でした。

 

 前作はヒーローの能力は広い意味での「才能の隠喩」として扱われ、それを正しく発揮することこそが大切で、才能ない奴は引っ込んでな、といった内容でした。そしてそれは私たち自身にとっても「ミドルエイジ・クライシス」や、社会の歯車として生きることへの反発に繋がっていて、何重にも楽しめる作品でした。

 

 

前作の感想です。

inosuken.hatenablog.com

 

 

 本作では、この「才能」の要素はそこまでメインにはなっていません。強いてそれっぽい箇所を挙げるとするならば、序盤の家族会議かなぁ。あそこで「法律なんて関係ない!能力のある奴が能力を使って何が悪い」というボブに対して、ヘレンが「法律は議会によって決まったもの。それを理由なく自由に壊していいわけはない」と反論します。ここは、前作の「社会の歯車」と多少通じる箇所でもあるかなと思います。

 

 このように、本作では「才能云々」の話は脇に置かれているため、ヒーローの能力はマイノリティの象徴となっている気がします。能力を告白したヒーローが「私、能力を告白したら生きていけないと思ってた」と言うシーンは印象的です。これによって、アメコミヒーロー的世界観も、アラン・ムーア原作の『ウォッチメン』の他に、『X-MEN』的な要素がより濃く出ている気がします。

 

 前作では、ヒーローはインクレディブル一家を除けばフロゾンしか出てきませんでした。ですが、本作では差別化を図るためか、ヒーローが多数登場します。それによって、前作ではあまりなかった「能力バトル」が存分に楽しめます。ブラッド・バードのアクションシーンの設計力の賜物で、どのアクションも観ていてとても楽しいし、観やすい。そこら辺の能力バトルものとは比べ物にならないくらい自らの能力を存分に生かし活躍しています。個人的に白眉だと思っているのは、中盤のバイクチェイス。イラスティガールの能力を存分に活かせるバイクの存在もあり、展開も創意工夫に富んでいて、素晴らしかったです。

 

 また、前作との比較では、構造が全く逆になっているのも面白かったです。前作はボブが最初に活躍し、ピンチの時に家族が駆け付けましたが、本作で最初に活躍するのはヘレン(イラスティガール)。そしてボブは何をしているかというと、家事に勤しんでいます。前作では「あるべき自分になろう」としたボブですが、本作では「よき父親になろう」としています。これには時代の変化を感じると共に、監督の実生活の反映も感じます。

 

 最後には前作と同じようにヒーロー活動を開始するところで終わっていました。ここまで観て、この映画、シリーズ化がいけるのでは、と思いましたね。家族の話は普遍的なので、色々なバリエーションで作れるし、「ヒーローもの」も形を変えて続けられます。定番も決まったし。多分、続篇が作られたら私は観ます。それくらい本作は楽しめました。