暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

普遍的な成長物語であり、フィクションが持っている力を再確認できる映画【ブリグズビー・ベア】感想

f:id:inosuken:20180625183016j:plain

 

74点

 

・はじめに

 最初は観る気が全くなかった作品。しかし、日曜日に用事が終わった後に『バーフバリ 王の凱旋 完全版』を観ようと思っていたのに、用事が長引いて時間的に観に行けず、それなら『焼肉ドラゴン』でも観るかと思ったのですが、何とこちらも良い時間が無いという悪夢。どうしようかと思っていたらTwitterでフォローさせていただいている方が激推ししていたので、たまには前情報を入れずに映画を観てみるかと思って本作を鑑賞した次第です。

 

・フィクションの力

 ポスターだけだとイロモノな印象を受けていましたが、実際に観てみると至極真っ当な青春映画であり、1人の青年が過去のしがらみと決別し、新たな人生へと歩き出すまでを描いた成長物語でした。そして同時に、我々が何故フィクションを求めるのか、を描き出し、フィクションが持っている力を再確認できる作品でした。

 

 何故、我々がフィクションを求めるのか。それは現実がクソだからです。現実では悪がのさばり、凡人は理不尽なことに日々直面し、鬱屈した気持ちを溜め込むだけです。誰かが言った名言に「事実は小説よりも奇なり」というものがありますが、これになぞらえて言うならば、「事実は小説よりもクソなり」なのです。フィクションはそんなクソみたいな現実を一時だけ忘れさせてくれ、没入させてくれるのです。そして、我々の生きる力になるのです。

 

・ストーリーと演出の素晴らしさ

 本作の主人公・ジェームスも同じです。冒頭、いきなり「外界は毒素があって出られない」と両親に言われ、両親とともに外に出ず暮らしている姿が映されます。この冒頭が非常に鮮やかだなと思いました。まず、「偽り」の日々の描写が最小限度の描写でできていて、「こんな日々をずっと送っていたんだな」と瞬時に納得します。あまりにも自然にこの描写に入るので、前情報なしだと、「これってSF?」と勘違いしてしまいそうなくらいです。

 

 そしてパトカーがやってきて、彼の「現実」が破壊され、取調室でカメラが引いて周りの風景(と言っても取調室ですけど)が映されることで、彼が知らない「外界」を彼が認識した瞬間を描きます。観ていて舌を巻きました。このように、映画製作を題材とした作品なだけあって、こういう表現が一々上手い作品です。この他にも、例えばジェームズが映画の魅力に魅せられた時(しかも観ている作品が何てことないB級っぽい作品なのがまたいい)に劇中の画面が途中から我々の観ている画面とシンクロしてジェームスの気持ちとシンクロさせる作りとかがありますね。

 

 こうして彼は何もかも偽物だったという辛い現実の中から、映画というフィクションの中に救いを見出し、未完の「ブリグズリー・ベア」を完成させると決意するのです。

 

・成長と自立の話

 本作の無駄のないところは、この映画製作が彼の自立へと繋がっている点です。彼は「ブリグズリー・ベア」の中にしか真実を見出せませんでした。つまり、「ブリグズリー・ベア」こそが彼の全てなのです。未完である本作を完成させる(=終わらせる)ことは、彼を縛り付けている物からの脱却につながっていくのです。

 

 また、この映画製作の過程で、ジェームスは周りの人間と信頼し合い、協力して行動することを学びます。ここから、これまで孤独だった人間が人と触れ合い、成長するという純粋な成長の物語にもなっています。

 

 本作は基本的にジェームスに寄り添って展開されますが、周りの人間も良かったです。真の両親の「想っているが故に空回ってしまう」感じとか、妹の最初の「何コイツ・・・」な態度からの終盤の態度とか。彼らが終盤で抱擁する姿は最初ぎこちない抱擁と対照的で、良かったですね。

 

・不満点

 ここまで「素晴らしい」「良い」って書いといて何ですが、不満点と言いますか、気になった点をいくつか。

 

 まず、ストーリーが都合良すぎだと思いました。周りの人間が早い段階でかなり好意的になったり、資金はどこから持ってきたのか分からないです。観ていて気になる私は心が狭いんだろうなぁ。

 

 また、劇中の「ブリグズリー・ベア」ですが、劇中では見た人はかなりの割合で「傑作」だとか「面白い」言っていますが、すみません、正直どうみてもそこまでの作品だと思えません。SFファンっぽい友人が「傑作」と言っていましたが、「マ、マジか・・・」と思いましたね。絶対「これつまんないよ」とつっ返されると思ってたので。

 

・おわりに

 このように、ストーリーは都合良くいきすぎなところがあるのですが、それを補えるくらい要素とか演出は素晴らしいと思いました。しかしこの点数なのは、単純に私の好みと合わなかっただけです。良い映画なんだろうけど。