暇人の感想日記

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笑いあり、涙あり、友情あり、メッセージありの超1級の娯楽作。【犬ヶ島】感想

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88点

 

はじめに

 ウェス・アンダーソン監督が、日本への愛を存分に詰め込んだストップ・モーションアニメ。設定からすると大変奇抜な映画かと思うかもしれませんが、その実、内容は笑いあり、涙あり、友情ありの王道の活劇であり、同時に非常に政治的な内容も含んでいる大変面白い作品でした。

 

驚異的なアニメーションクオリティ

 ウェス・アンダーソンの作品は、以前からシンメトリックな構図と直線的な動きのカメラワーク、そして凝りに凝った絵本のような世界観など、どこかアニメーション的な世界観を醸し出していた気がします。そしてその世界を、持ち前の完璧主義で再現していました。そして、この特徴「自分の世界を完璧に再現する」という点において、アニメーションは最適な方法だったと思います。特にカメラワークですね。横に動いているのを観ていると、本当に絵巻物を観ている気分になれます。

 また、背景だけでなく、キャラクターのクオリティも凄まじい。人間は本当に生きている気がしますし、犬も大変リアルにできています。特に体の毛ですね。いちいち風になびいていて、1コマ1コマ地道にとっていくストップ・モーションアニメという手法を考えると、こだわりに対するちょっとした狂気すら感じます。最初はストップモーションとは思えませんでした。

 このように、狂気すら感じるクオリティですが、であるが故に観ているだけで快感を覚えます。つまり、観ているだけでとても楽しいのです。これだけで料金分の価値はあると思います。

 

日本映画のオマージュ

 本作は日本映画、特に黒澤映画からのオマージュが相当引用されています。基本的な内容は『悪い奴ほどよく眠る』ですし、犬ヶ島のデザインはどことなく『どですかでん』を彷彿とさせます。さらに、『酔いどれ天使』で流れていた歌が流れる、三船敏郎、仲代達也、志村喬をモデルにしたと思しきキャラなど、日本の映画ファンには大変嬉しい要素で満ちてます。

 しかも、これらの要素がきちんとストーリーに絡んでくるのだから素晴らしいです。犬を探している少年・アタリを助けるため、これまでゴミと同じく(『どですかでん』の舞台もゴミ捨て場)虐げられていた犬たちが『七人の侍』のBGMと共に立ち上がるシーンには、犬たちの姿が侍と重なり、俄然熱くなります。この「主人公とそのお付き」というメンバー構成は、どことなく『桃太郎』とか、『次郎長三国志』、『水戸黄門』といった時代劇を彷彿とさせます。本作との関係は知らんけど。

 

王道の活劇の中にある、今の世界へ向けたメッセージ

 本作は難しいものではなく、観ていて面白い娯楽活劇です。冒頭の太鼓からめちゃくちゃカッコよく、テンションが上がりまくりです。そして、少年が犬と交流を深め、互いを理解し合い、大きな陰謀を打ち破ります。真面目一辺倒ではなく、頻繁に表れるユーモアにクスッと笑わせられるなど、非常に完成度も高い。「変なニッポン」描写も、本作に限っては、意図的な気がします。これによって、寓話感が出てると思うし。

 しかし、本作の中には、ちゃんとしたメッセージがあります。本作における犬は、現実世界における虐げられている者の象徴です。彼らは人間という強者によって虐げられ、居場所を奪われています。これはまさに今世界で起こっていることと似通っています。そして、それを解決するために、人間側の子どもが、種族も言葉も違う相手を認めることで、互いを尊重し合っていくのです

 

 それを体現した関係がアタリとチーフだと思います。チーフは主人に逆らう「凶暴な犬」と認識されていましたが、それは違い、ただ1匹の犬として誇り持っているだけなのです。だからこそ本作の主張に説得力が出たのかなぁと。後、純粋にカッコいい。これは世界中の人間が持つべき資質だと思います。本作はこうした現代的なメッセージも内包しているのです。

 

おわりに

 このように、本作は普遍的な娯楽要素も含みつつ、今の世界へのメッセージを内包させた極めて完成度の高い作品だと思います。おすすめです。