暇人の感想日記

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まさに「今」観るべき映画【ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書】感想

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80点

 

 アメリカ国防省ベトナム戦争に関する経過や客観的な分析を記録し、トップ・シークレットとなっていた文書、通称「ペンタゴン・ペーパーズ」。これを政府の圧力と戦いながらも公表しようとしたワシントン・ポストの面々を描いた作品。作中の舞台設定は1971年ですが、現在、日本でも似たような出来事が起こっているため、図らずもタイムリーな作品となってしまいました。

 本作は『大統領の陰謀』のような作品ではありません。『大統領の陰謀』等といった、ジャーナリズムを用いたエンタメ作品は、スクープをとる過程を重点的に描き、そこにカタルシスを見出します。しかし、本作は、その過程は描かれはしてもドラマチックではなく、どことなく淡々と進みます。そのかわり重点を置かれているのが、「この記事を公表するかしないか」という個人の葛藤です。その代表がキャサリン・グラハム。彼女はそれまで父と夫が作り上げてきたポストを護るために、記事を公開するかしないのか、という決断を迫られます。演じるのは名優メリル・ストリープ。周りの意見に振り回されていた女性が自立した存在になる過程を、抜群の演技力で演じています。彼女の決断によって新聞社各社が動き始めるシーンは大変なカタルシスを生みます。ちなみに、この「女性の決断によって世の中が動く」という展開も非常に現代的です。

 この個人の葛藤に焦点を当てることで、本作のテーマも見えてきてます。それは「ジャーナリズムってこういうものだよね」ということだと思います。というのも、キャサリンやポストの記者たちの原動力となったのは、ジャーナリズムの本分である「民主主義を機能させるための、権力の監視機関」という自負だったと思います。そして、情報を漏洩した役人も、理由は似たところがあったと思います。そして今、アメリカはもちろん、世界各地でフェイクニュースがはびこり、排外的な思想を持った勢力が力を伸ばしてきています。こんな時だからこそ、ジャーナリズムがしっかりして権力を監視し、国民に正確な情報を与えることが重要なのだ、と言いたかったのではないでしょうか。確かに、報道の自由から有名人の不倫とか相撲のニュースばっかりやられたらうんざりもしますけど、責務を果たしてくれれば、国民ももっと政治について考えることができると思うのです。もちろん新聞を盲信することは禁物ですけど。これは全世界的に通用するものでしょう。

 ストーリーばっかり書きましたが、ここで私が素晴らしいと思ったシーンについて。まず、活版印刷の下りです。映画的に撮られていて、めちゃくちゃ興奮しました。また、本作の「敵」の描写も秀逸でした。スピルバーグお得意の「見えないからこそ際立つ」恐怖演出。さすがですね。本作ではホワイトハウスがトラックであり、ジョーズでした。

 本作は、所謂「名作」ではないと思います。スピルバーグはこう述べています。「これは僕のツイートのようなものだ」と。事実、彼は本作を9カ月で撮ったそうです。ツイートとは、情報の波に吞まれ、一瞬で消えてなくなります。本作は、後世に残るような普遍性よりも、「今」に特化した内容となっています。故に、本作はまさに「今」映画館で見るべきスピルバーグ渾身のツイートなのですね。