暇人の感想日記

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断ち切りがたい、血のつながり【犬猿】感想

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85点

 

 初・吉田恵輔監督作品。彼の作品はとても評価が高いので、いつか観てみたいと思っていたところで、本作が上映。とても面白かったですし、その手腕に感服しました。「兄弟のたまりにたまった鬱憤が最後に爆発する」だけの話を、こうもドラマチックに描けるとは。

 まず冒頭。本作はここから飛ばしています。完全に騙されました。ここから、吉田監督の性格の悪さが滲み出ている気がします。そしてその仕掛けから自然に始まる本編。それは兄弟姉妹の間で起こる無情の争いでした。本作ではこのいさかいによる鬱憤の蓄積が上手い。そしてそこから生じる微妙なパワーバランスの変化とか、相手に対して持っている複雑かつ面倒くさい感情の変化を違和感なく表現しています。これは脚本が素晴らしいということがあると思いますが、それと同じくらい、役者さんの演技の素晴らしさもあります。新井浩文さんの「自己中心的な男」ぶりとか、窪田正孝さんの平凡そうなんだけど、実は腹に一物持ってる感じとか、筧美和子さんのバカっぽさとか、江上敬子さんのできるけどコンプレックス抱えている感じとかを、多面的に演じています。彼らは彼らなりに相手のことを思って行動している、ということに説得力を持たせる演技もさすがです。

 これだけ書くとドロドロ劇かと思われるかもしれませんが、そんなことはなく、むしろ対照的に全編カラッとした雰囲気です。なので、作風としては喜劇ですね。ここら辺の手腕も恐ろしいですね。そしてこのいさかいの終わりには、キッチリと我々の涙腺を刺激してきます。内容はドロドロだけど雰囲気はカラッとしていて、最後には泣ける。あぁ良い映画を観た・・・と思ったのも束の間。最後の展開で一気に現実に引き戻されます。ここで、「そう上手くいくわけないだろ」という監督の声が聞こえてきて、結局、最初から最後まで監督の掌の上で踊らされっぱなしだったことに気付くのです。

 本作は兄弟姉妹のいさかいの話です。ですが、内容自体は、広く人間関係全般に言えるのではないでしょうか。生きていると、どうしても相手を妬んだりしがちですし、どうしても好きになれないこともあります。「人は生まれながらに平等ではない」とはよく言いますが、本当にそうだなと実感することもあります。私は、本作を観てそんなことを考えました。

 でも、赤の他人ならいくらかは良いのです。育ちの問題とかもあるかもしれませんから。ですが、本作の場合は兄弟姉妹。同じ母親から生まれたはずなのに、どうしてここまで違うのか。故により妬みが拡大していくのです。いや本当、1人っ子で良かったと、心の底から思える映画でした。