暇人の感想日記

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3兄弟が世界の巨大な「闇」に抗うノワール作品【ビジランテ】感想

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95点

 

 冒頭が非常に印象的です。闇の中を3人の兄弟が川を渡っていくアレです。後ろから追いかけてくるのは横暴な父親。彼らはその暴力から逃げ出してきたのです。しかし、3人は川に足をとられて上手く走れず、もがきながらも逃げ続け、長男だけが向こう岸に辿り着きます。しかし、あえなく3人は父親に捕まってしまいます。この冒頭は本作の内容を端的に語っています。つまり、「兄弟が世界の巨大な暴力に飲み込まれるノワール作品」だという事です。

 本作では田舎を舞台にしています。そして、物語はそこでのみ展開されます。つまり、本作において、田舎=世界なのです。そしてその田舎は非常に閉鎖的で、排他的。さらに巨大でドス黒い「力」が渦巻いています。本作には全編を通して、三兄弟を圧迫する巨大な力が溢れています。冒頭は父親でしたが、本編では「政治」という力です。しかし、父親の存在も完全にいなくなっているわけではなく、いわば「不在の中心」とでも言うべき存在感を保っています。本作では闇が印象的だなと思っていて、何か兄弟たちを、町民を呑み込もうとする巨大な何かな感じがするのです。

 ですが、冒頭で向こう岸まで辿り着いた一郎だけは外の世界に出て、それらの力に圧迫されることなくこの「世界」を搔き乱します。しかし、この長男、何を考えているか分からない怪物のような男です。故に、秩序の崩壊が際立ちます。

 かえって、二郎と三郎はこの世界でもがき続けています。三郎はデリヘルの雇われ店長で、上のヤクザの力に圧迫されています。次郎は「政治」という力に圧迫され、その世界でもがいています。これは我々の社会でも同じですね。我々も出口のない闇をもがきながら、力に圧迫されながら生きています。

 しかし終盤、この2人は全く対照的な行動をとります。三郎は演じているのが桐谷健太であるせいか、どこか人情味のある役で、「兄弟の絆」や、同僚(?)の女の子のために動きます。しかし、最後も兄に固執するあまり、悲劇的な結末を迎えます。一方、二郎は全く逆です。兄弟としての情を切り捨て、政治の力に飲み込まれた結果、その世界で生きていく資格を得るのです。この点で、本作は「力に呑まれてしまった兄弟の話」と言えると思います。ラスト、街の暗闇の中で煌々と光っていた灯が、三郎の命の灯でもあり、二郎の情の灯でもあったのかもしれません。そして、灯が消えた瞬間、2人はそれぞれ別の形で街の「力」に呑まれてしまったのかもしれません。

 また、本作の重要な要素として、神藤家があります。物事が起こるのは、大抵あそこです。故に、「兄弟の話」が一層強まった気がします。

 役者も文句なしですね。特に般若さんです。怖すぎだろ、大迫さん。入江監督、今年は傑作ばかりです・・・。