暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【ゲット・アウト】感想:サスペンスであり、社会派作品でもある。

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86点

 

 全米で大ヒットしたサスペンス・ホラー。サスペンスとしてももちろん面白いですが、それ以上に本作は現代のアメリカの中にある差別意識を風刺し、最終的にそれを全てぶっ飛ばすという痛快な娯楽作品となっていました。

 アフリカ系アメリカ人である青年・クリスは、週末に白人の彼女の家へ泊まりに行く。しかし、さすがに彼女の家に1人で行くのは辛いものです。周りは彼女の家族だけ。何とか馴染もうとしますが、結局「よそ者」であるクリスは気まずい気分を味わいます。そんな中でもやっぱり彼女は優しいわけですが、徐々に違和感を抱き始めます。不気味なメイド、木こり。そして彼らがとる奇怪な行動・・・。そこでクリスは気まずさ以上の不気味さを感じます。本作はこの序盤の積み重ねがめちゃくちゃ上手い。この奇怪な行動を小出しにしていき、クリスの、そして観客の不安を煽ってきます。しかし、本作がとても上手いのは、緊張ばかりではなく、きちんと観客目線のキャラを入れ、そいつを使って合間にコメディシーンを入れていることです。これで緊張が緩和されるわけです。他にもちゃんと必要になる伏線は張ってあって、よく出来てるなと。

 ここで監督について書くと、監督であるジョーダン・ピールは、コンビで黒人差別ネタをやっていた人だそうです。これを踏まえると、本作は黒人差別を風刺した内容ととれます。パンフレットのコラムによれば、監督はDVDの副音声でこう述べているそうです。「この映画は表から見えない奥深いところで煮えたぎっている差別意識を暴こうとした。」と。

 ここで、彼女の家をアメリカと例えれば面白い構図が見えます。クリスは黒人ですが、「白人一家」である彼女の家に馴染もうとします。これは黒人が白人社会・アメリカに馴染もうとする構図そっくりだということです。そしてこの家族は、自らを「黒人は差別しない」一家だと表面上では言っています。しかし、裏ではとんでもないことをしているわけです。この裏にあるとんでもないことが監督の言う「奥深いところで煮えたぎっている」ものなのだと思います。こう見ると、作中には黒人差別的な台詞が所々に見え隠れしている気がします。ジョージナの台詞とか。

 中盤、この不穏さが一気に表出し、白人が黒人に対して持つ差別意識がむき出しになります。あれも白人が黒人を乗っ取るということを非常に即物的に描いていたと思います。クリスもその餌食になるのかと思いきや、最後に大反撃を繰り広げ、ここまで溜めに溜めた鬱憤を晴らしまくる。ここは正に黒人の反逆で、本当に痛快そのもの。故に、ラストで家を出ていく姿は印象的です。

 また、役者も素晴らしかったですね。特にベッティ・ガブリエルですね。泣き笑いのシーンは素晴らしかった。

 このように本作は、白人の中にある黒人への差別意識を剥き出しにさせ、そしてその上でそれらをぶっ飛ばし、そこを後にする、という痛快な娯楽作品でした。