暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【仁義なき戦い 広島死闘篇】感想

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97点

 

 「仁義なき戦い」の続編。前作の大ヒットを受け、3カ月で撮られた作品。マジかよと思いました。だって、全然そうは見えないから。前作から全く間をおかずに作られたからか、前作の熱量がそのまま残っています。

 やってることは前作と似たような広島のヤクザ抗争なのですが、前作は群像劇の様相を呈していたのに対し、今作は、山名と大友という個人に焦点を当てたものになっています。広能の出番は少ないです。そしてそれ故に、組織に翻弄され、虚しく死んでいく男の姿が、1作目より際立っていたと思います。

 今作は山中の話です。モデルは伝説のヤクザとされる山上正治。広島抗争の中心人物で、「殺人鬼」のあだ名に代表されるように、ヒットマンとして人を殺しまくったそうです。そして、映画終盤のナレーションによれば、彼は伝説として語り継がれているそう。こんな人物をモデルにしたのが主人公ですが、やはり前作と同じように、キャラがカッコよくない。むしろ、組織に翻弄される哀れな存在として描かれています。

 今作では、前作より戦争の影響が色濃いです。山中は復員兵で、特攻隊崩れです。そして、彼は自分のマグナムを「俺の零戦だ」と言います。つまり、戦争で行き場を失ったエネルギーをヤクザ抗争にぶつけているわけです。

 彼は最初の殺人と自決の時に口笛を吹きます。それが有名な予科練の歌」です。これは戦意高揚映画として作られた「決戦の大空へ」の主題歌で、当時の若者の心を掴んだものと言われています。歌詞も御多分に漏れずな感じです。これを口笛で吹くんですね。つまり、戦意高揚の歌を最初の殺人で吹いているのです。これは自分への鼓舞ではないでしょうか。ここから、この抗争そのものが「戦争」の様相を呈してきます。

 対するは千葉真一扮する大友勝利。こいつがとんでもない奴で、山中とは違い、欲望のまま生きています。大友組創設の理由が理由ですし。山中も結構人を殺しますが、こいつは殺す上に殺し方がひどい。川谷拓三へのリンチは有名ですね。彼は戦後の無軌道な欲望の象徴ということでしょうか。また、組織に翻弄される山中に対し、終始その組織に喧嘩を売っていく姿も対照的です。

 抗争は前作のように血みどろです。そして、そこで描かれる暴力は「ひどいこと」「虚しいこと」としてしか描かれません。暴力で抗争をしていますが、結局、何も生みだしてませんからね。しかも、山中が殺した人は、基本的に彼個人の動機というよりも、ほとんどは村岡に命令されてしたものです。彼は村岡に乗せられ、靖子とも別れ、無意味な死を生みます。「上の人間が下の若い人間を使って殺しをさせ、権力を貪る」これは前作と同じです。ですが、今作では山中という個人に絞ったことで、それがより鮮明に描かれています。そして重ねられる戦争のイメージ。考えてみれば、戦争も似たようなもんですよね。上の人間の判断で若い命が消える。大義なんて基本的に見せかけでしかない。そして、実社会のドラマでもあると思います。組織に個人が殺されるなんて、よくありますし。違うのは拳銃を使うか否か。

 ラスト、やっぱり葬式ですが、広能と権力を得ている人間が対照的です。村岡やその他は、自決した山中を「立派な奴だ。誰にも迷惑をかけずに自決した」と言います。そしてそれを苦虫を噛み潰したような表情で見る広能。彼は我々の気持ちを代弁しています。何という無責任か。山中と大友の死闘の果てには何が残ったか。無駄に死人を出して終わりです。そんな虚しさを残す映画でした。

 後、梶芽衣子ですね。若い時美人すぎだろ。今の姿しか知らんかったからびっくりした。