暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【鬼龍院花子の生涯】感想:なめたらいかんぜよ

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90点

 

 「なめたらいかんぜよ」

 あまりにも有名な台詞。夏目雅子のものが有名ですが、作中で登場人物が何回も言っています。作品の精神そのものな台詞です。この台詞のように、今作はなめたらいかん映画でした。エンタメとしても面白いし、映画としても素晴らしいためです。

 それまで荒削りで通俗的なものを撮っていた東映が挑んだ大作。スタッフもこれまでの東映撮影所の人間ではなく、大映の人間を参加させていることから、東映の変化が読み取れます。そして、大映が関わっているだけあって、美術と撮影は凄いです。作りこまれているし、画面も大作らしく非常にどっしりしていて、それまでの手振れカメラの映像とは対照的です。

 しかし、技術的には大作ですが、この映画、物語的には構成がガタガタだと思いました。どう考えても前と後で話がつながらない編集がしてあるんですね。ラストの花子の行動はよく分からんし、松恵と田辺がどう惹かれあったのかとか、謎な部分が多いです。なぜこうなったかというと、五社英雄はとにかく画に拘って、不必要だと感じたシークエンスはバッサリ切る人間だったからだそうです。でも、その分映像でグイグイ観客を引っ張っていくので、観ている分には気になりません。しかし、これでひどい被害を受けた人間がいます。鬼龍院花子です。

 タイトルは「鬼龍院花子の生涯」ですが、鬼龍院花子はぶっちゃけ脇役です。メインは仲代達矢演じる鬼政と夏目雅子演じる松恵の関係でした。タイトル詐欺も良いところです。この2人が本当の「親子」になるまでを鬼龍院家の趨勢と並行して描いています。

 とにかく何といっても夏目雅子です。彼女の存在感が半端じゃない。仲代達矢ときちんと張り合っています。ラストの「なめたらいかんぜよ」は最高でした。見てて涙出てきた。血はつながってないけど、鬼龍院家の精神を最も濃く継いでいたのが彼女だと気づけたし、何よりあの迫力。堪らん。

 もう1人の主人公は仲代達矢。鬼政という人物を好演しています。鬼政はヤクザなのですが、所謂「愛すべき馬鹿」で、情にほだされて左翼の社会運動家に協力するわ、「侠客」という言葉に拘って汚い丹波哲郎演じる親分と縁切りするわ、考えなしで行動していきます。しかもそのくせ物事を自分中心に考えているため、他人に逆上したり、松恵を学校に行かせたがらないなど、困った人です。でも憎めない。所々愛嬌があるんですね。

 物語はそんな彼が松恵を養子として貰い受けるところから始まります。最初は養子として見ていたのかと思いきや、中盤、松恵が嫁に行くかもしれない、というところで、こいつは松恵を犯そうとするんですね。ここで、彼が松恵を女として見ていたことが判明するわけです。つまり、子どもの頃から見染めていたわけですか。

 しかし、この積み重ねがあるからこそ、ラストの「なめたらいかんぜよ」にグッとくるし、鬼政が最後の戦いに向けて支度をしているときの松恵とのやり取りに泣かされるわけです。

 ここまで、鬼龍院花子にほとんど触れてませんけど、松恵と対照的な存在でしたね。花子は「血はつながっているけど、それ故に運命に翻弄された女」、松恵は「血はつながってないけど、自分を見失わないで生きた女」って感じで。故に、最後に松恵が歩く後ろ姿を見て、鬼龍院家の精神は不滅であると同時に、彼女はこれからも強く生きるであろう気がしました。

 他の女優さんも凄い。特に岩下志麻ですね。絶命シーンは映画史に残るものでした。また、夏木マリさんも体張ってますね。

 男優さんも凄い。若き日夏八木勲、室田日出夫、山本圭もいい味出してました。後、若き日の役所広司が出てきたのにはびっくりしました。

 このように、色々とレベルが高いうえに、更に恐ろしいのは、エンターテイメントとしてもとても面白い作品でした。昔の映画だと思ってなめたらあかん映画です。