暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【仁義なき戦い】感想:仁義なき戦いをしているのは

f:id:inosuken:20171007000118j:plain

 

97点

 

 言わずと知れた、実録ヤクザ映画の金字塔。この作品の成功を機に、東映は実録路線に舵を取ります。それまで東映が作ってきた任侠映画は、過去に自社で制作してきた様式的時代劇を任侠の世界に落とし込んだようなものだったそうです。しかしそれが行き詰っていたところに今作が大ヒット。路線を確立したとのことです。

 今作は、これまでの「義理人情」的な描き方から離れ、仁義など欠片も持ち合わせていないヤクザが抗争を繰り返す姿を描いています。しかし、ただ抗争を描いているだけではなく、全編を通して、そこからは深作監督の抱いている思いが浮かび上がってくる作品でした。

 冒頭、非常に有名なキノコ雲のシーンからこの映画は始まります。そしてオープニングのクレジットの背景には、全てを壊されつつも、人々が生活のために市を開いている姿が映されていきます。そして本編に入るのですが、その時の画面の熱気が凄い。本作の特徴の1つとしては、全体的に画面の熱量が半端ではないことが挙げられます。役者の演技はもちろん、有名な手持ちカメラの撮影による荒々しい映像、そして背景の人々の熱気、全てが熱気に満ちています。何故、ここまでの熱気を出すことができたのか。春日太一さんの「あかんやつら」を読んで想像がつきました。要するに、東映の撮影所も同じ環境だったからですね。

 そんな異常ともいえる熱気の中、ヤクザの仁義なき戦いが描かれます。それは裏切りに次ぐ裏切りです。映画の中は常に誰かが死ぬかもしれないという緊張で満ちています。広能以外の人間は、予期しないところから、あっという間に死にます。しかもその死に方が本当に悲惨です。だいたい良い人から死んでいきます。しかも、裏切りにあって。また、死ぬにしても、ペキンパーとか西部劇みたいに弾一発で死んだりしません。何発もぶち込まれて、叫び声をあげ、血まみれで死んでいきます。それが突然起こるんですよ。何となく、北野武映画にも通じる要素ですね。また、殺す側もカッコよくない。むしろ、おっかなびっくり殺しています。

 しかし、よく観てみると、このように血まみれの抗争をしているのは、広能のような「下っ端」の人間です。では親分は何をしているかというと、高倉健みたいにドス持って乗り込むのではなくて、ただ下の人間に指示を出しているだけなんです。その典型は金子信雄です。このキャラは所謂巨悪ではありません。むしろこすい悪役です。しかし、口だけがやたら上手く、自分が危うくなると、「もうお終いや」みたいなこと言って泣くんですよ。そして部下を殺しに走らせる。自分では絶対に手を汚さないんです。そしてそのさらに上には、政治家がいるんですね。彼らは絶対に自分の手は汚さない。部下を使って血を流させ、自らは利益を得る。仁義なき戦いをさせているのは、彼らなのです。

 しかし、ここまで深刻にとらえる映画ではないんです。というのは、笠原和夫によれば、今作はコメディらしいのです。そういえば、指詰めのシーンは何だか笑えるし、登場人物が死ぬ度にあの曲がかかるのも笑える気がします。

 「あかんやつら」によると、笠原和夫は「破滅の美学」において、このように述べています。「《実録もの》はデフォルメ(変形)に力点をおき、素材の《毒性》を意図的に誇張することで、現実の隠れた貌を摘出しよう、というのが私の考えだった。したがって作品の形態は喜劇〈コメディ〉になる」と述べています。

 これを読むと、まさしく今作はヤクザの抗争を少々誇張することで、人間の死や、若い人間の命が上の人間によって無下に扱われていることを描いたと思います。

 裏切りによって死んだ松方弘樹の葬儀に広能が来る有名なラスト。仁義なき戦いの果てに何が残ったのか。供物に弾を放つ広能の姿が良く、でも同時に、銃声は空しく聞こえました。

 最後に1つ。これ、呉の話なんですよね。「この世界の片隅に」と同じ時代の話なんですよね。つまり、すずさんが「もったいないよね、塩分がねぇ」とか言ってる間に、広能は劇中最初の殺人を犯していたわけですか。怖。