暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

【打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?】感想

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45点

 

 昨年「君の名は。」を見事なプロデュースで驚異的大ヒットに導いた、川村元気P。彼が仕掛けた次の夏アニメは、岩井俊二監督の名作のアニメ化でした。公開時期、予告、そして宣伝の力の入れようから、東宝が「君の名は。」の二匹目のどじょうを狙っているのは明白です。ですが、その思惑も空しく、完成したものは実に微妙な出来で、失敗した「君の名は。」でした。
 
 失敗した理由として、本作は「君の名は。」で起きた、それぞれの要素の化学反応が全く起こらなかったことが挙げられます。「君の名は。」は新海誠の強みを最大限に引き出し、弱点を考えうる限り最強のスタッフでカバーしたからこそ、あそこまでの作品になりました。しかし本作は、集めた要素が何一つ噛み合ってないのです。結果として、互いの要素を殺しあい、誰も得しないアニメになってます。
 
 その最大の問題は、オリジナルとアニメーション制作会社であるシャフトの組み合わせが悪かった点だと思います。オリジナルは「もしも」という要素がありながら、SF的要素はなく、評価されたのは主にノスタルジーだったと思います。川村さんは、そこは理解していたようで、この当時の世界を再現できるのはアニメだけだ、と思い、アニメ化に乗り出したらしいです。ここまでは良かったと思います。しかしノスタルジーの表現には、一種実在感が必要だと思っていて、そこがシャフトと合っていないと感じました。シャフトって、二次元表現を駆使して作品を作ってるところがあって、制作作品を見ると、どれも二次元的で、実写的じゃないんですよね。背景もそうですし、人物だって、演出だってそうです。何言ってんだ。今作は背景は頑張って「普通」になっててビックリしたのですが、それだとそれでシャフトっぽさが薄れた気もしました。ただ、それは前半で、後半、オリジナルの展開になってからはシャフト感が増します。しかし、これはこれでオリジナルの魅力を損ねている気がします。また、大衆向けにも失敗しています。普段アニメを見ない人にはあのキャラデザはキツいと思いますよ。
 
 そして、ストーリーも、恋愛ものですけど、かなり鬱屈したものになっていると思います。主人公典道は、ヒロインなずなを連れ出すため、「もしも玉」なるアイテムを使って何度も一日をやり直します。しかし、やり直しをする度にどんどん抽象的な世界になっていくのですね。一回目のやり直しでは、全てが反時計回りになり、二回目は花火が平べったい、三回目では海の上を電車が走るなど、「現実離れ」して、ありえない世界になっていきます。そして、「正解」である「二人だけの世界=瑠璃色の地球」に近づいていくのです。ラストで花火が上がりましたけど、あれはあの世界こそが「正解」だったということでしょうか。

 

 そして、あのもしも玉は、いろんな人の「もしも」が詰まったものだそうです。つまり、この世界は典道の「妄想」の世界なんだと思います。誰もが持ってる「理想の世界」を二人で妄想の中で目指す話だと思います。それはある意味で現実的ではあります。「君の名は。」の方がありえないファンタジーですから。ただ、「妄想の中で想いを成就させる」ことは、大災害という「現実」に立ち向かった「君の名は。」と正反対で、逃避ですよね。どんどん内に入って行くって、エヴァじゃないんだから。しかし、そういう感情を描いた作品としては、本作は面白いかと思います。

 

 また、声優に関しては、違和感はなかったです。ただ、なずなは慣れるまでに時間がかかりましたね。何故なら、外見は完全に物語シリーズのガハラさんじゃないですか。なのに、声が広瀬すずなんですよ。これは少し戸惑います。後、松たか子の無駄遣いがひどい。何でオファーしたの。

 

 結論として、本作は、「東宝が大ヒットを見込んで300館規模で公開した大衆娯楽作」としては完全に失敗ですが、「アニプレックスが50館規模で公開したシャフトの新作アニメ」と思い込めば、まぁ見れると思います。