暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

2019年秋アニメ感想②【ぼくたちは勉強ができない!(2期)】

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 春に放送された「ぼくたちは勉強ができない」の続篇。情弱なので事実上の分割2クールだとは知りませんでした。前作の感想で「2期もあったら見るかね」と書いたし、キャラは嫌いではないので視聴しました。

 

 本作に対する、私のラブコメとしての感想は前作の感想で書きましたので、そっちを読んでいただくとして、2期はかなり驚いた点があるので、そこについて思うところを書きます。

 

 それは、アニオリ(?)で特定のヒロインとのルートENDをやってしまったという点。現在も連載中の作品をアニオリで完結させるということはままありますが、ここまでやった作品は近年無いのではないでしょうか。ラブコメで最も注目されるのはどのヒロインが勝つ(=主人公と結ばれる)であり、基本的にどのヒロインと結ばれても大論争が巻き起こります(「いちご100%」、「ニセコイ」など)。原作者がやってもこれなので、アニオリでやってしまえば荒れるのは必至。だからか、原作が未完のラブコメアニメはだいたい「俺たちの青春はこれからだ!」みたいな感じで終わります。本作はこのタブーを犯してしまっているのでは、と思います。

 

 ただ、私はこの試みは面白いと思いました。というのも、こうしたことで、1つのラブコメ作品が一種ギャルゲーのように、媒体毎に個別のルートを作り出したと思うからです。そしてそれがファンに対する1つの救済にもなっています。これは原作が未完なのでまだ確定的なことは書けませんが、もしうるかが負けヒロインになってしまった場合、うるかファンは悲しみにくれ、作品が荒れる要因になるでしょう。しかし、こうして「TVアニメルート」を用意すればもう1つの「正史」を作ることができ、うるかファンを救済することができます。この点で、あのラストは面白い試みだなと思いました。

 

 ただ、あのラストにしたことで起こった弊害もあると思っていて。それは他の2人をややないがしろにしてしまったということです。本作は文化祭から一気に卒業、進学まで飛び、ラブコメとしての結末は「うるかが選ばれた」ことがぼんやりと示され、他の2人が成幸への恋心をどのようにして踏ん切りをつけたのか、がまるで描かれません。特に理珠は2期になってもそこまでラブコメ的な活躍をしてないのもあって、ちょっと味気ない印象を受けます。一応、うるかは超奥手だったから、ようやく自分から行動を起こしたってことで話をまとめたかったのかな。

 

 もう1つの可能性として、「原作の結末を過程をすっ飛ばして見せた」というのもあるとは思いますが、これに関しても上述の点をカバーすることはできないと思います。というか、無駄にネタバレしただけな気もします。

 

 また、話の内容も、1期からのテーマ、「出来ることでなく、やりたいことに向かって頑張る」をちゃんとやっていたかなと思います。全話通してのハイライトは文乃と父親の和解だと思うのですが、あそこには本作のこのテーマが凝縮されていたように思います。そして、唯一「やりたいこと」がなかった成幸が自分の夢を見つけるというラストも一貫性があるなと思いました。

 

 以上のように、強引ながらも話をまとめましたし、それ自体は面白いと思います。ただ、強引ゆえに思うところがあったのも事実な作品でした。3期はあるのかな?無いのかな。

2019年秋アニメ感想①【PSYCHO-PASS サイコパス3】

 皆様、あけましておめでとうございます。いーちゃんです。昨年は当ブログを読んでくださり、ありがとうございました。今年も頑張って更新していきますので、何卒、よろしくお願いいたします。新年1本目はこちらです。

 

 

 

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 2012年より始まった近未来SFアニメ。ノイタミナ枠ということで、私はTVアニメ1期から視聴しており、シリーズは最近の劇場版3作を除いて全て見ています。というわけなので本作も見ない理由はなく、視聴した次第です。

 

 本シリーズの肝はシビュラシステムです。このシステムは「個人の心理状態を数値化できる」もので、これにより犯罪を未然に防ぐことができるようになり、平和が保たれているというものです。現代でも凶悪犯罪が起こるたびにこのようなシステムを開発しろという声が上がりますが、本シリーズには、「もしそれを実現したらどうなるか?」という、一種思考実験的な要素があります。TVアニメ第1期はこのシステムに引っ掛からない槙島聖護という存在とシステムに従属する公安1係の刑事が対峙することで、「権利集中の管理社会の中で人間はどう生きていくのか」みたいなテーマを描いていたと思います。後は刑事アクションものとしても中々面白かった記憶があります。続く第2期ではスタッフが入れ替わった影響か話のクオリティがだいぶ落ち、正直言って詰まらなかった記憶があります。ただ、朱が最終的に人間に希望を託して終わるなど、1期の頃にあったテーマをもう少し深掘りしていました。

 

 そして本作ではどうやってストーリーを進めていくのかと思えば、何とシリーズを通しての主役だった朱を監禁させ、主役を2人新しく据え、シビュラシステムとはまた違ったボス、ビフロストなる機関を置くという方法をとってきました。このビフロストはシビュラとは違う意味で世の中をコントロールしている存在で、世界をゲームのように操っています。私はこの描写には現代的なものを感じました。というのも、彼らがやっていることはそのまま今の政治や経済界あたりがやっていることと同じだと思います。経済は一部の大株主の投資や利益のために回り、そして政治は利権のために行われる。そして下々の我々にはその恩恵は回ってこず、寧ろ本作の中の犯罪者よろしく駒として使われるだけです。こういった姿にビフロストは重なって見えました。こちらはあくまで比喩表現としてですけど。第2話なんて意図的にリーマン・ショックを起こさせているわけですし。

 

 そしてそれは、シビュラ的な管理社会と比較され、提示されます。つまり、「完全な管理社会がいいのか、操られている社会がいいのか」という極論です。本作はこの2つの極論を提示することで、シリーズのテーマである「管理、支配体制下の社会の中で人はどう生きるか」ということを語ろうとしているのではないかと思いました。

 

 また、同じくメインで語られているのは、現実でも問題になっている難民問題。現実では排外的な動きが出ていることを考えれば、負の感情を数値化できる本シリーズでこの問題を扱うことは思考実験として意義があると思いますが、如何せん本筋との食い合わせが若干悪かったですね。

 

 さらに、クライム・サスペンスとして。捜査に関しては灼のメンタルトレースが便利すぎって意見は分からなくもないですが、一応デメリットもあるので許容範囲でした。シビュラの目をかいくぐるためのトリックについても、2期でシビュラがあれだけ醜態をさらしていたので気にならず、寧ろ「なるほどなぁ」と思ってましたし、ビフロストの存在について全く関知していないあたりも上述の理由で気にならず。この点を「脚本の穴」とする意見もありますが、そもそもこのシリーズには免罪体質者(200万人に1人は多すぎ)という巨大な穴があるわけですし、そこまで気にならず。

 

 その他には、シリーズ恒例のOPとアクション作画は素晴らしく、見応えが十分なものでした。

 

 ただ、全8話、普通のTVアニメで16話もかけたのに結局劇場版の前振りにしかなっていないのは大きなマイナス。せめて物語はある程度は終わらせてほしかったです。本当に何もかもぶん投げているので、その商法に辟易してしまいます。正直、本作の真相も気になると言えばなりますが、映画を観るまででもないよなぁ、というのが本作に対する私の評価を表していると思います。

「普通」に囚われるな【メランコリック】感想

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85点

 

 

 田中征璽、皆川暢二、磯崎義知の3人が結成した製作チーム、OneGooseにより製作されたインディーズ映画。昨年の『カメ止め』と同じく監督、俳優共に知名度0の方々が集まって製作されたものの、東京国際映画祭では絶賛され、スプラッシュ部門監督賞を受賞しています。そんな効果もあったのか、公開されるやじわじわと話題になっていき、現在でもロングラン上映中。そんな作品ならばとりあえず観ておきたくなるのが人情なので、近場で公開されたのを機に鑑賞してきました。

 

 鑑賞してみて驚いたのが本作のクオリティの高さ。無名の方が作っているのですが、シネコンで上映されている作品と比べても遜色が無いどころか、比較する作品によっては、こちらの方がかなり出来が良いのです。普通に楽しんで観ることが出来ました。

 

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 本作の最大の白眉は、「銭湯で暗殺と死体の処理を引き受けている」という、今までありそうでなかった斬新な設定です。確かに銭湯ならば死体の血も洗い流せるし、遺体の処理も簡単です。さらにこの暗殺シーンも素晴らしく、磯崎さんが切れのいい動きを見せてくれます。また、この磯崎を始めとして、本作は『カメらを止めるな!』と同じく、役者が皆ハマり役で、実在感が素晴らしかったです。

 

 加えて、本作は空間の使い方がとても上手いなと思いました。本作では「日常と非日常」が非常に大切な作品で、銭湯はこれが同居している、一種境界のような場所です。そして和彦は松本とは違い、「日常側」の人間として「非日常側」に中々入りません。それが彼と非日常の絶対的な隔たりなのです。しかし、ラストで、遂にその「境界」を越えて「非日常」に入り込み、「常識」から解放されるのです。このように本作は、日常と非日常の区別を空間を巧みに利用してやっています。

 

 また、本作は東大卒フリーター(ほぼニート)の成長物語としても面白いです。理由は不明ながら、主人公は東大を卒業していながら定職に就いていません。私も大学を卒業してからしばらくフリーターをやっていたので、主人公の境遇には大変共感しました。両親との気まずい会話とか、同窓会に行ったときの気まずさとか、面接のときに聞かれる「何で就職しなかったの?」っていう「察しろよ!」としか言えない質問とかです。そんな主人公が初めて職に就き、仕事で得る満足感、ライバルへの嫉妬を経験し、人として成長していくのです。最後には他人の助けを素直に借りられるようになった彼の姿には、結構自分を投影して観てしまいました。

 

 

 本作のタイトルは「メランコリック」です。意味は「憂鬱」です。本作は全体的に飄々としており、「憂鬱」な重苦しい感じはありません。では何が憂鬱なのかというと、それは登場人物なのかなと思います。本作の登場人物は、主人公を始め、「生き方」に縛られています。主人公は「東大である」ために「東大の生き方」を求められ、苦労しています。私もそうでした。東大ではありませんでしたが、就職できなかったことで周囲から「それでどうするの?」とか言われ、自分が「普通でない」という劣等感を覚えました。フリーターだった時期は本当に将来が不安で、「憂鬱」でした。だからこそ、ラストで「常識」の範疇である考えから解き放たれ、「幸せ」を見つけた姿にグッときました。ただ、そこで和彦が言ってた「幸せ」が『男はつらいよ 寅次郎物語』での寅さんの台詞とほとんど一緒なのにはビックリしましたね。

 

 

昨年、低予算ながらも大ヒットを記録した作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 同じくインディーズ映画。

inosuken.hatenablog.com

 

2020年冬アニメ視聴予定作品一覧

 皆様。こんばんは。いーちゃんです。2019年ももう終わりですね。来年は遂に2020年。『AKIRA』と同じく、まさかの東京オリンピックが開催されるという記念碑的な年になりました。正直、そんなことしてる場合じゃないだろと思いますし、不祥事続きで本当に開催できるのかハラハラしているのですが、私にとって、オリンピックなどより重要なのは新作アニメです。2020年の始まりを飾る視聴予定作品が決まりましたのでご報告します。記事は、放送日時を書くのはやめました。やる意味ないなと思ったので。それでは、行ってみよう。

 

2019年夏アニメ視聴作品

「炎々ノ消防隊」

ヴィンランド・サガ

 

2019年秋アニメ視聴作品

PSYCHO-PASS サイコパス3」

BEASTARS

「星合の空」

「僕たちは勉強ができない!」

 

2019年秋アニメ視聴継続作品

Fate/Grand Order 絶体魔獣戦線バビロニア

「歌舞伎町シャーロック」

「バビロン」

 

 

 では、これから2020年冬アニメの視聴予定作品を発表いたします。

 

「恋する小惑星

「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」

「映像研には手を出すな!」

「ID:INVADED イド:インヴェイデッド」

「pet」

「へやキャン△」

「魔術師オーフェンはぐれ旅」

空挺ドラゴンズ

「推しが武道館いってくれたら死ぬ」

「地縛少年花子くん」

「うちタマ?!~うちのタマ知りませんか?~」

「虚構推理」

「22/7」

ドロヘドロ

「OBSOLETE」

「薄明の翼」

 

 視聴予定作品は既に配信中の「OBSOLETE」を含めて計14本。秋アニメの本数が少ない分ここに集中したのか?と思えるほど、やや多めになりました。中でも一番楽しみなのは何と言っても「映像研には手を出すな!」です。原作を読んでいた頃から「これをアニメ化するとしたら、監督は湯浅政明しかいない」と思っていただけに、それが実現した本作は超楽しみな作品です。

 

 また、「タマ&フレンズ」のまさかの擬人化アニメ「うちタマ?!」もノイタミナ枠ということもあり気になるし、Youtubeで公開中のPVが本当に素晴らしかった「22/7」(一応、黒星紅白枠でもある)、別にドルヲタではないのですけど、監督と制作会社が「ヤマノススメ」な「推しが武道館いってくれたら死ぬ」、「+Ultra枠」である「空挺ドラゴンズ」、あおきえい最新作「インヴェイデッド」も楽しみです。

 

 そして「名作のアニメ化」枠である「ドロヘドロ」と「魔術師オーフェンはぐれ旅」の2作。原作は例によって未読なのですが、名前はさすがに聞いたことがあるので、視聴しようと思います。

 

 以上、視聴予定アニメでした。今回は豊作な感じがします。

トラウマを克服する人の物語【IT/イット THE END "それ”が見えたら終わり】感想

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80点

 

 

 2017年に公開され、ホラー映画歴代最大のヒットを飛ばした前作『IT "それ”それ”が見えたら終わり』の続篇にして完結篇。監督はアンディ・ムスキエティが続投し、成長した「ルーザーズクラブ」にはジェームズ・マカヴォイジェシカ・チャステインらが配されています。前作はホラーというよりは『スタンド・バイ・ミー』のようなジュブナイル映画として楽しみましたので、前作でつかなかった決着をどのようにつけてくれるのか、気になったので鑑賞しました。

 

 鑑賞して思ったことは、この『IT』という作品は、やはりジュブナイルなのだということです。本作では前作では真の意味で克服できなかった「恐怖」に打ち克ち、彼ら「ルーザーズクラブ」が真の意味で「大人」になるまでを描いています。

 

 

 前作でペニーワイズを退け、大人になったルーザーズのメンバー。しかし、冒頭で映される彼ら彼女らの現在を観ていると、大人になった今でも、彼ら彼女らは子ども時代のトラウマを背負っている点に気付きます。ビルは脚本家として売れ、吃音も克服したのに子供がおらず、ベバリーは自分の父親と同じようなDV男と結婚してしまっているし、エディは母親のトラウマを、ベンはイケメンになったけど太ってた頃に受けたトラウマを引きずっています。彼らは、社会的に一応は成功を収めているものの、少年時代のトラウマを引きずったままなのです。これはそのまま現実の問題に当てはめることができます。現実でも小さい頃に何かしらのトラウマを植え付けられた人がそのトラウマを背負って生きているということは起こっているからです。

 

 本作が描いていることは、ホラーというジャンルの体裁を借りて、恐怖と向き合い、こうしたトラウマを克服する人間の話なのです。そしてペニーワイズはこうしたトラウマのメタファーであって、だから変幻自在に姿を変えられるのです。そしてそれは普遍的な話であり、だからこそラスト、青春時代との決別のシーンでは感動するのだと思います。

 

IT(1) (文春文庫)

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 ジュブナイル映画としては素晴らしいのですが、ホラーとして正直、微妙。怖がらせ方が完全に「ドッキリ」系で、ビックリはしますけど怖くはないです。ただ、ペニーワイズさんの圧倒的エンターテイナーぶりは目を見張るものがあり、ルーザーズを怖がらせるために作りだした目くるめく幻覚、恐怖シーンはバラエティに富んでおり、本当に楽しませていただきました。

 

 以上のように、やっぱりジュブナイル映画としては本当に素晴らしい作品でした。3時間近く、飽きずに観られたのはペニーワイズさんのおかげですが。

 

 

前作の感想です。

inosuken.hatenablog.com

 

 こっちはガチホラー。超怖い。

inosuken.hatenablog.com

 

本当に「終わらせる」だけの、へっぴり腰映画【スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け】感想

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55点

 

 

 1977年に『新たなる希望』が公開されてから42年。旧三部作、プリクエル・トリロジー、そして2015年の『フォースの覚醒』より始まった今回のシークエル・トリロジーを経て、『スター・ウォーズ』という映画史における「神話」が遂に完結します。『最後のジェダイ』の感想でも書きましたが、私の『スター・ウォーズ』に対する熱は程々でして、今回鑑賞したのも、伝説的な作品の完結をリアルタイムで味わいたいと思ったからです。

 

 『最後のジェダイ』以後のゴタゴタもあり、そこまで期待していなかったのですが、実際に鑑賞してみると「期待値以下」を通り越し、ディズニーの志の低さに「失望」を感じさせる作品でした。

 

 

 『フォースの覚醒』は奇跡的な作品でした。展開こそは旧3部作と似通っていますし、謎や伏線を次作に丸投げにした「ズルい」作品でもあります。しかし、この作品の白眉は新しい物語を紡ぐ、「新キャラの紹介」をし、新たなトリロジーの始まりを完璧にやってのけた点です。このハードルの高さは尋常ではありません。『スター・ウォーズ』は世界でも有数の「うるさがた」のファンがいる映画。ジョージ・ルーカスという強力な免罪符をなくした以上、彼らを如何に納得させるか、がトリロジー継続のために必要不可欠でした。更に、『スター・ウォーズ』に馴染みのない人にとっても楽しめるものにする必要がありました。『フォースの覚醒』はこれらの難題を見事にクリアしてみせた作品だったのです。「接待」と言われるほどの過剰なファンサービスも、謎をぶん投げた作りも、これらの条件のもとならば納得です。

 

 続く『最後のジェダイ』は、このぶん投げた謎と、魅力的な新キャラをどう発展させるかという、勝負の作品でした。が、結果はご存じの通り、革新的すぎるが故に既存のファンから猛反発をくらいました。それもそのはずで、『最後のジェダイ』は『スター・ウォーズ』という作品の定番をひっくり返しまくった作品だからです。スカイウォーカー家という「血」を否定し、ジェダイを否定し、スノークはラスボスではなかったと判明し、まさしく「全く新しい、普通の人々」のための『スター・ウォーズ』が始まるのだと思わせる作品でした。まぁストーリー的には非常に歪であり、明らかにいらない内容も多く、「定番の破壊」だけやって、話が全く前に進まなかった映画なことも事実なのですが。

 

 以上のように、やや歪ながらも積み上げられ、渡されたバトンを受け取った本作は、ファンの顔色をビクビクと窺いながら作られた、非常に保守的な、「へっぴり腰な」作品でした。

 

 

 本作では、『最後のジェダイ』で行われ、ファンの逆鱗に触れた数々の「逆張り」を丁寧に丁寧に「修正」していきます。カイロ・レンのマスクは修復され、「カビの生えた本」をレイは熟読し、スカイウォーカーの血や、ジェダイには敬意が払われ、ルークは「ライトセイバーには敬意を払え」と前作と全く逆のことを言い、スノークの代わりにパルパティーンが復活します。また、『最後のジェダイ』で仲間になったポーグはちょっとしか映らないし、フィンとのロマンスを見せてくれたローズは背景と化しました。まるで『最後のジェダイ』など存在していなかったようです(J.Jは「無視してない」って言ってるけど)。無視するならするで良いのですが、ムカつくのは、『最後のジェダイ』と似たような内容を形を変えてもう1回やっている点。ポーがリーダーを継ぎ、「どうすればいいのか分かりません」とか言ってるシーンでは、「お前、それもうやっただろ!」と突っ込みながら観ていました。

 

 翻って、『スター・ウォーズ』らしさは倍増しています。ストーリーは旧3部作のようなアドベンチャーであり、ルーカスが『スター・ウォーズ』のもとにしたされる『ガンガ・ディン』を彷彿とさせるものです。このストーリーがお使いの連続で回りくどくて『最後のジェダイ』とは違う意味でグダグダであるというのは、この際置いておきます。また、終盤の「アッセンブル」は「民衆が自由を求めて立ち上がる」という、これまたルーカスが『隠し砦の三悪人』や『七人の侍』から引用し、構想したものです。故に、『最後のジェダイ』と比べれば『スター・ウォーズ』っぽさはあります。ただ、2時間22分の間にこれらの事を詰め込んでいるため、話の展開が急で、1つ1つの要素の処理が事務的な印象を受けます。

 

 

 そして話の内容も、パルパティーンの血筋を引くレイとスカイウォーカーの血を引くベンが共に協力してダークサイドの誘惑を克服し、全ての元凶であるパルパティーンを倒して和解し、レイがスカイウォーカーの意思を継ぐ、というラストは成る程、「家族の物語」としてまとまっているように見えます。ご丁寧に『ジェダイの帰還』と構造を同じにし、ベンがレイに対し、ルークがアナキンに出来なかったことをしたり、「フォースの導き」を使うというのもその「まとまってる感」を助けています。

 

 しかしこれにより、更なる問題が生じています。それは『フォースの覚醒』からあった、「シークエルは旧3部作の焼き直し」という点です。『フォースの覚醒』の時点で元の木阿弥感が強く、内容も『新たなる希望』のようなものでした。しかし上述のように『フォースの覚醒』はシークエルの最初、掴みだからこそこの内容が許されていました。ここから新たな物語を紡げばよかったものの、結局最後は保守的な路線に走り、『ジェダイの帰還』よろしくパルパティーンを倒して終わりですからね。「焼き直し」という評価は避けられないと思います。というか、パルパティーンがあんなにも簡単に復活してしまっては、いよいよルークとアナキンがやったことが無駄になってしまっています。別の意味で過去の作品を否定してしまいましたね。

 

 つまり本作は、ファンを怒らせないように細心の注意を払って作られた映画で、極めて無難な作りになっています。だから、シークエル・トリロジー自体に「現代で『スター・ウォーズ』を作り直す意義」がまるでなくなっています。そしてスタッフの「早く『スター・ウォーズ』を終わらせたい!」という悲痛な叫びが聞こえてくる作品でもあります。こんな映画、観てて不憫になるだけです。

 

スター・ウォーズ C-3PO 1/12スケール プラモデル

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 結局、新しい物語であるはずのシークエル・トリロジーは、旧3部作の焼き直しで終わりました。何故ディズニーは、こんなものを作ったのでしょうか。それは簡単ですね。儲かるからです。ディズニーが自らの帝国をより強固にするために40億ドルでルーカスフィルムを買収し、コンテンツの強度に甘え、見切り発射で始めたのです。J.Jやライアン・ジョンソンは寧ろよくやりました。問題はプロデューサー陣で、ちゃんと手綱を握って、コントロールするべきでした。出来なかったから、本作でこのような醜態を晒してしまったのです。

 

 以上のように、本作は2時間22分かけた撤退戦であり、映画から製作陣の焦りが透けて見えてしまう作品でした。私はここから、『スター・ウォーズ』という映画界において重要な「神話」がディズニーという巨大資本の「商品」に成り下がってしまったように感じ、虚しくなってしまいました。でも同時に、こうした事態を作ったディズニーとルーカスフィルムに対して、怒りも感じます。志の低さという意味では、今年ワーストレベルです。あぁ、C-3POがシークエル史上最もコメディ・リリーフやっていた点は良かったです。そんだけ。

 

 

シリーズ前作。色々あるけど、嫌いではないです。

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 スピン・オフ。これは微妙。

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2019年夏アニメ感想⑤【荒ぶる季節の乙女どもよ】

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 別冊少年マガジンにて、2017年1月号から2019年10月号まで連載された漫画のアニメ化作品。原作は岡田磨里、画は絵本奈央。アニメ化にあたり脚本は漫画から引き続き岡田磨里が務めています。制作会社は「RELEASE THE SRYCE」などのLay-duce.監督は「花咲くいろは」でも岡田磨里とタッグを組んだ安藤真裕。私は原作は未読で、安藤監督と岡田磨里に惹かれ視聴しました。

 

 本作は表面上はこれまで岡田磨里が手掛けてきた作品と同じく、ちょっと拗らせ気味の少年少女たちの青春ストーリーです。しかし、その中身で決定的に違う点は、アニメではあまり取り上げられることのない「性」が前面に押し出されている点。昨今の深夜アニメ作品には、たとえラブコメであっても性の匂いがほとんどせず、非常に透明なキャラばかりです。それを究極的なまでに高めたのが京アニだと思っているのですが、その他の作品でも、視聴者サービスとしてのHシーンはあれど、そこに性欲といった生臭さはありません。

 

 

 翻って本作では、アニメが意図的に避けてきた「性」を押し出しています。(主に曾根崎先輩のやっかみから)「純潔」を絶対の信条としてきた文芸部の女子5人が初めて「性」を意識して、翻弄され、新しい感情や、全く知らなかった自分を発見するまでを描きます。ここでは男の存在は彼女らの成長を促すため、そして彼女らの反応を引き出すための触媒のような存在で、他のアニメと比べるとややテンプレ的なキャラが多い気がします。一番ヤバいのが杉本で、男の無意識下のどうしようもない面を一手に引き受けていました。彼らの存在によって、女子、若しくは女性の「男に対する反応」を描いたのだと思います。思いますというのは、私は男であり、女友達も少ないので、この辺の苦労はニュースやブログで想像するしかないからです。ごめんね。この意味で本作は、「青春」というよりも、同じく岡田磨里脚本の「放蕩息子」のような、「思春期ストーリー」であると思います。

 

 ラストはこれまで純潔を貫いてきた彼女たちが、真っ白な校舎にぐしゃぐしゃにペンキを塗りたくるという、「穢れ」であったはずの性を肯定したもので、私は清々しさを感じました。しかもそこには男の姿は存在しない。完璧な女の園であるというね。この意味でも本作は、「女の子」の話であると思います。

 

 まだ自分たちが知らないことを知り、それに翻弄され、新たな感情を知る。これは紛れもない思春期の話だと思います。そして、ここまで女子高生の思春期を前面に押し出し、「女の子」を描くことのできる岡田磨里さんは、アニメ業界の中では非常に重要な存在だと思いました。最後に、ラストのアレはえすいばつってことでいいんだよね?やりすぎだぞ、マリー(笑)。

 

 

岡田磨里脚本作品。

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 岡田磨里、まさかの監督作。

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