暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

まっすぐな思いが、人々をつなぐ【バジュランギおじさんと、小さな迷子】感想

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75点

 

 観たのは2月の始め。それなのに何故感想を書くのがこんなに遅くなってしまったのかというと、あまり言葉が出てこなかったから。これは感動したというよりも、本作があまりにも「いい話」であり、「良かったね」以外の感想がなかなか出てこなかったのです。そのため、感想をまとめるのが延び延びになり、今に至る、というわけです。しかし、いつまでも先延ばしにするわけにはいかないので、感想を書きますよ。

 

 本作の存在を知ったのは、wowowぷらすとで紹介されていたから。パキスタンに住む少女、シャヒーダーが、インドで母親とはぐれ、インドに住むパワンと出会うところから物語は始まります。ここからシャヒーダーをパキスタンに帰すロード・ムービーとなっていきます。

 

 本作はこのようにロード・ムービーの形式をとっていますが、そこに内包されているテーマは、インドとパキスタンの分断の歴史です。その分断を乗り越え、分かり合うことを、本作は主演2人に託しています。

 

 1人はパワン。ハヌマーンの熱心な信者であり、真っ直ぐな男です。演じるのは監督でもあるカビール・カーン。この男、一応「一般人」のはずなのですが、醸し出している雰囲気は完全にスターのそれ。いきなりスローモーションを使っためちゃくちゃケレン味のある演出で登場し、周囲の人間とダンスを披露、シャヒーダーと心を通わした後は、彼女を付け狙う奴ら相手に大立ち回りを繰り広げます。その姿はもはや「王」のそれ。バーフバリ!

 

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 一方、パキスタン側はまだ子供のシャヒーダー。この娘は幼いだけではなく、言葉を話せないという、庇護欲を掻き立てる要素の塊みたいな娘で、それはそれでズルいなぁと思うのですが、まぁ仕方ない。ただ、この「子供」ということは結構重要で、そこには「子供だからこそしがらみ抜きで付き合える」という点もあります。

 

 パワンは、純粋で真っ直ぐな男です。そんな男の行動が、ネットを通じて人々を動かし、国境を突破するラストはとても感動的です。しかも、しっかりと国境の間でパワンとシャヒーダーの2人が抱き合って終わるという、非常に綺麗な終わり方をします。

 

 本作は、パワンが持っているような「願い」をそのまま体現したような、非常に真っ直ぐで、純粋な映画だと思いました。

 

 

 同じくインドで記録的ヒットを記録した作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 融和という点で似ているかと。

inosuken.hatenablog.com

前作をさらにスケールアップさせた2作目【ジョン・ウィック:チャプター2】感想

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88点

 

 

 キアヌ・リーヴスが素晴らしいガン・フーアクションを見せ、ロシアンマフィアを壊滅させた快作『ジョン・ウィック』の続編。10月に3作目となる『ジョン・ウィック パラベラム』の公開が控えていることもあり、遂に鑑賞しました。

 

 鑑賞してみると、本作は1作目にあった要素はほぼそのままに、スケール感を増大させた作品であり、「前作のパワーアップ」という意味では実に正しい2作目でした。

 

 

 前作は、キアヌが体を張って演じていたガン・フーが特に素晴らしかったです。ただ銃を撃つのではなく、体術を上手く絡めながら相手の動きを封じ、確実にヘッドショットを決めるという戦い方は、観ていてとても新鮮でした。前作はこれを軸にシチュエーションを幾つか設け、バリエーションに富んだ戦いを見せてくれました。

 

 本作でもこのスタイルは健在。ただ、1作目の二番煎じにならないよう、それぞれがきちんとパワーアップしているのです。例えば、ジョンが追っ手から逃げるときの銃を換えながらの戦い方とか、駅構内での敵と並行に歩きながら一般人に気付かれないように撃ち合うとか、ラストの鏡に囲まれた空間での撃ち合いとか、前作より更に進化しているところが見受けられます。

 

 これに加え、本作では体術もパワーアップ。鉛筆1本で敵を倒すとか、電車内のナイフでの戦いとか、バリエーションが豊富。総じて、本作は戦い方のバリエーションが多彩で、それが次から次へと出てくるので、観ていてとても楽しい。

 

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 また、本作では、前作ではそこまで描写されなかった殺し屋の世界がたっぷりと描かれます。ルールもそうですし、「中立地帯」での殺し屋達の会話やそこから感じられる彼らの美学、そして全世界にいる殺し屋の登場など、前作では語られるだけだったものがどんどん出てきて、世界観を広げています。さらに、本作ではコンチネンタルもフルで活用します。その準備の過程で、ジョンの普段の仕事を垣間見れた気がしますし、実に中二っぽいので、ここも観ていて楽しい。中二っぽいと言えば、あのダサい字幕も健在で、出てきたときは笑っちまいました。

 

 ストーリーについては、ぶっちゃけ前作以上にありません。妻との思い出の家を破壊されたジョンが、イタリアマフィアにはめられ殺し屋に追われるという、本当にただそれだけ。一応、復讐していくにつれてジョンが何かを失っていくという大まかなものはありますが、やっていることはアクションの連続です。しかし、そのアクションが新鮮で楽しいので、全く気にならん。

 

 以上のように、本作は前作の要素をさらにパワーアップさせた、正統派な続編でした。つーか、2作目でこれなら3作目はどうなるんだ。

 

 

前作。こっちも面白い作品でした。

inosuken.hatenablog.com

 

 とても良い続篇ということで。

inosuken.hatenablog.com

 

1人の男の罪と罰【ペパーミント・キャンディー】感想

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97点

 

 

 現在、『バーニング 劇場版』が公開中のイ・チャンドン監督の作品。私は存在は前から知っていて、観たいと思っていました。しかし、あいにくソフトは現在絶版でAmazonでは値段が高騰しておりとても手が出せず、しかも近場レンタル店では取り扱ってないという状況なので、観たくても観れないという状況が続いていました。そんな中、上映が決まった今回の4Kレストア版。絶対に観たいと思い、時間を何とか作って鑑賞してきました。

 

 鑑賞して、噂に違わずかなり重い作品で、1人の男の「罪」と「罰」を描いたものであり、人生についての話であり、魂の救済の話でもあります。観終わった後はしばし呆然とするくらい、素晴らしい映画でした。

 

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 本作は、キム・ヨンホが人生に絶望し自殺を図り、電車に向かって「あの頃に戻りたい!」と叫ぶところから始まります。この彼が自殺を図ろうとした理由を、彼の人生を切り取った7つのエピソードを遡っていき、オムニバス的につないで解き明かしていくというのが、本作の大まかな内容です。

 

 本作を「上手いなぁ」と思ったのは、このエピソードを観ていくにつれ、この主人公のキム・ヨンホに対する印象がどんどん変わっていく点。最初こそ、惨め極まりない状態でずっと泣いているので、私としても同情し、「さぞ辛い目に遭ってきたのだろう」と思わずにはいられませんでした。

 

 しかし、3つ目の〈人生は美しい 1994年〉からガラッと印象が変わります。コイツがかなりのクズ男だということが判明するのです。家具店を経営し金回りはいいものの、探偵を雇って浮気現場に強襲し、相手をボコボコニします。しかもそれだけでは飽き足らず、自分の妻にまで暴力を振るいます。そのくせ自分は別の女と浮気しているのです。控えめに言って最低で、奥さんに捨てられても文句など言えるわけないと思わせられます。また、途中で出てくる旧知の仲っぽい人間に対しても非常に高圧的な態度で接しています。「人生は美しい、だろ?」とヨンホが彼に言った台詞が、非常に傲慢なものに感じられます。

 

 さらに強烈なのが4つ目の〈告白 1987年春〉。ヨンホは家具店を経営する前、何と警察に身を置き、民主化運動を取り締まっていたことが判明するのです。『1987 ある闘いの真実』でも描かれた、権力側の人間だったわけです。コイツは。なので、普通に一般市民を拷問したりしています。しかもその拷問されている人間が前のエピソードで出てきた人。ヨンホ自身は奥さんと暮らし、赤ん坊も生まれそうというだけに、余計に行いがおぞましく感じられます。というか、そもそも1994年でもしっかり家具店かなんかを経営しているということは、コイツは上手いこと自分が犯した罪から逃げたことになります。ここまで考えると、余計に胸糞が悪い。

 

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 しかし、終わりの方で、ちょっとした変化があります。ヨンホは行きずりの女性を関係を持つのですが、「初恋の女性を思い出して」と言われ、抱かれた時、彼その女性の名前を呼び、泣くのです。そしてその後は、我を失ったように彷徨い、「思想犯」逮捕の時もボーっとして何もしないのです。

 

 これはどうしたことかと思いながら次の〈祈り 1984年秋〉を観て、またヨンホへの印象が変わります。彼はこの時は新米刑事で、まだあどけなさを残しています。拷問にも非常に消極的で、警察の上司に対してちょっとした抵抗も見せたりします。しかし、あの「手の汚れ」から、彼が変容していくのです。上述の「初恋の人」スニムが会いに来ても、別の女性に手を出しているところを見せつけ、彼女が持ってきた「彼の夢」であるカメラの受け取りを拒否します。

 

 なぜスニムを拒絶するのか。その全ての答えが明かされるのが〈面会 1980年5月〉です。ここでの彼は、兵役中で、まだ足の怪我もなく、1984年よりもさらに純朴そうな人間です。そんな彼ですが、光州事件下で殺人を犯してしまいます。ここで全てがつながるわけです。要はヨンホは、この殺人の罪を、自身をダークサイドに落とすことで贖っていたのです。こう考えると、本作は「時代に翻弄された人間の話」と捉えることもできます。

 

 また、ここから、彼が自殺を決心した理由も、おそらく最愛の人であるスニムが危篤になったからだろうと想像できます。彼にとって、彼女は綺麗な思い出であり、だからこそ自分から遠ざけていたし、危篤となったから自分の生きる意味もなくなったと考えたのだと思います。軍のトラックが次第にスニムから離れていくシーンが非常に印象的です。

 

 そして映画は〈ピクニック 1979年秋〉へ。このシーンでは、ひょっとしたら、ペパーミント・キャンディーで味消しできるように、一巡してヨンホが人生を「やり直せる」可能性が示唆されています。もしそうだとしたら、今度こそは、彼の人生が幸せであるように祈らずにはいられません。

 

 

 1987年の民主化運動を題材にした作品。

inosuken.hatenablog.com

 

 光州事件を題材にした作品。

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ある意味で湯浅監督の到達点【きみと、波にのれたら】感想

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87点

 

 

 昨年、アヌシー国際アニメーション映画祭において、宮崎駿高畑勲以来、日本人監督として最高賞であるクリスタル賞を獲得した鬼才、湯浅政明。興行的な成功はまだありませんが、制作本数、そして各国の評価に関していえば、アニメーション監督としては、おそらく日本で最も勢いのある方だといえます。そんな方が次に放ったのは、何と正統派ラブコメ作品でした。おいおい大丈夫なのか?と思いながら劇場に足を運んで鑑賞した次第です。

 

 鑑賞してみると、想像以上に「普通の」ラブコメであり、それ故に湯浅監督「ぽくない」作品に見えるものでした。しかし、それはあくまでも「表面上」の印象であり、中身を観てみれば何てことはない、いつもの湯浅作品の要素がぎっしり詰まっている作品でした。そして、表面上は「ぽくなく」見えるからこそ、これまで湯浅監督が目指してきたことが形になっている作品であり、その点では彼の到達点かもしれないです。

 

 湯浅政明監督と言えば、長編デビュー作『マインドゲーム』からその濃厚すぎる特色が前面に出ていた方でした。エッジの効きまくった演出、ドラッギーなアニメーション表現、独特のパースなど、観れば一発で彼の作品だと分かるものばかりです。しかし、その作品の中身とは裏腹に、彼自身は常に「大衆受け」を考えていたそうです。でも作っていたのは食人鬼とハンターの恋を「タイガーマスク」の絵でやったバイオレンス・ラブストーリー「ケモノヅメ」とか、キャラクターはポップだけど観念的な「カイバ」とかなのです。「四畳半神話大系」以降は原作付きのものを手掛け、ある程度の大衆性を獲得していき、その果てに作ったのが『夜明け告げるルーのうた』だったのです。

 

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 この変遷を辿っていけば、本作は、ティーンエイジャーの子たちが好むような超王道のラブコメ作品となっており、湯浅作品史上、最も「普通」な作品となっており、それ故に1つの「到達点」と言えると思うのです。

 

 本作を観て感心したのがキャラのチューニングぶり。『DEVILMAN cry baby』でも組んだ小島崇史さんのキャラデザはアニメよりと言えばそうなのですが、しっかりと一般層でも観られるものにしています。また、各々のキャラクターもかなり一般層寄りにしています。でも、その中でもひな子のかわいさや洋子のツンデレぶりはきちんと描かれていて、魅力あるキャラになっています。この一般層とオタク層へのバランス感覚がとても良かったです。

 

 内容も「普通」。ひな子が港と知り合って恋に落ちるも死に別れるという、徹底して王道ラブコメの道を行きます。普段ならば「くっだらねぇ」と100%の偏見を持って観ない内容なのですが、そこはさすが湯浅政明。2人の突き抜けたバカップルぶり(多分、アニメ史に残るレベル)を見せつけてくるも、「下らない」とは思わず、寧ろ2人の姿が本当に良いもので、気恥ずかしさがあまりなく見られるのです。

 

 この2人の交流のBGMに流れるのは思い出の曲である「Brand New Story」。洗脳レベルで何回もかかるので耳に残りますし、印象付けられたおかげでEDにかかってきたときには、2人の思い出が思い出され、ちょっと泣けるくらいにはなっていました。

 

 このように、表面上は「普通」すぎる本作ですが、その中身はきちんとした湯浅政明印で、人と人の「つながり」の話でした。これは、湯浅監督が一貫して描いてきたことだと思います。映画で言えば、『マインドゲーム』と『夜は短し歩けよ乙女』、アニメシリーズでは最近の『DEVILMAN cry baby』はモロに「つながり」と「継承」の話でした。

 

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 本作のタイトルである「波にのれたら」の波は人生の波です。湯浅監督はこれまでの作品で、「心の持ちようで、世界は変わる」と訴えていました。ひな子は自分に自信が持てず、それ故に何でもできる港に惚れるわけですが、その港はひな子に救われたことで今の自分になったことが分かり、自分の道を決めていく、つまり、恋人を失った悲しみを乗り越え、「波にのる」わけです。だからこそラストのひな子の姿は感動的であり、同時に前向きになれるものでした。

 

 他には、やはりアニメーションの素晴らしさですね。特に、「水」の表現が最高です。ラストの波の表現に至っては、湯浅監督恒例のアニメーションの爆発シーンが素晴らしく、ひたすら心地よい、快楽漬けみたいな気分になりました。また、オムライスやコーヒーなどに現れている飯テロシーンも素晴らしく、上映中、劇場内にいた子どもが「美味しそう」と言っていたのが印象的でした。

 

 このように、本作は一見「湯浅っぽくない」作品ですが、きちんと観ればいつもの湯浅印であるという、作家性と大衆性を獲得した作品だと感じました。

 

 

 昨年湯浅監督が送り出した傑作。

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 水と、ラブ・ストーリーってことで。

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1人の女性の、人生のはじまり【旅のおわり 世界のはじまり】感想

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88点

 

 

 日本人監督として、おそらく世界で最も評価されている監督の1人、黒沢清。これまでホラー、サスペンス、SF、ヒューマン・ドラマなど、実に多彩な作品を作り続けてきた彼が次に放ったのは、ウズベキスタンで自分探しをする女性の話でした。私は黒沢作品はとりあえず観るようにしているので今回鑑賞したのですが、本作はとにかくこれまでのどの黒沢作品とも違う雰囲気を持った作品であり、タイトル通り、人生の迷子になった1人の女性の「旅のおわり」と、彼女にとっての「世界のはじまり」を描いた、個人的には素晴らしい作品でした。

 

 黒沢監督は、これまでの多くの映画で女優を映してきました。『回路』では麻生久美子、『岸辺の旅』では深津絵里、『散歩する侵略者』では長澤まさみといった具合に(『贖罪』は観れてない。すみません)。しかし、それらの作品では、彼女たちは中心ではあっても、まだ外部が描かれていたと思います。そこにいくと本作は、前田敦子が出ずっぱりの作品で、それは比喩ではなく、彼女がいない画面は無いと断言してもいいくらいの出ずっぱりぶりです。この点で、本作は上記のどの作品とも一線を画していると思います。

 

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 この前田敦子演じる葉子は、徹底して他者とのコミュニケーションを拒否する人物として描かれています。愛想よく笑って喋るのはリポートをしているとき、カメラの前だけです。それ以外は徹底して無表情で、会話をしようとしません。本作では、この葉子と他者との隔絶を、『回路』や『岸辺の旅』でも見せた、黒沢監督お得意の画面の層を重ねる手法で描いています。上記の2作品で見せた手前(=生者の世界)と奥(=死者の世界)という画面の層の使い方を応用し、葉子が1人でポツンと立っている様子を撮るとき、手前の彼女と奥のクルーたちとはまるで「違う世界」にいるかのように撮っています。これによって、ディスコミュニケーションぶりを強調しています。

 

 そんな、まるで「違う世界」にいるかのように心を閉ざしている彼女が、唯一心を許しているのが日本にいる彼氏です。本編にはまったく出てこないのですが、LINEでやり取りをするときにだけ見せる彼女の笑顔を見る度、「本当に辛いんだな」と何とも切ない気持ちにさせられますし、同時に心を許せる人間が本当にいないのだなと思わせられます。これにより、葉子がより「向こう側」の人間に思えてきます。

 

 では、何故彼女がそこまで心を閉ざしているのかというと、現実と理想とのギャップで、人生の迷子になっているから。彼女は本当は歌手になりたいらしいのですが、実際にやっているのは過酷なリポート。このギャップにやるせない気持ちになり、「私何やってんだろ」という気持ちになっているのです。多分。そんな「迷っている」からこそ、どこにも行けない、自分と同じような山羊を解放したくもなるのです。

 

 

 精神的に迷子な彼女ですが、それを体現するように、現実でも都合3回、ウズベキスタンの街を彷徨います。そしてその度に、新しい「何か」を発見するのです。1回目は自分と同じように、どこにも行けない山羊、2回目は「理想の自分」、そして3回目の迷子で、署長の言葉から、「分かろうとしなければ、分かり合えない」ことに気付きます。

 

 3回の彷徨の末、少しだけ自分の思う通りに映像を撮り始めた彼女ですが、ここからのラストが圧巻。撮影クルーから離れ、1人で山中を散策していたとき、山羊(=自分自身)にもう一度出会い、突然「愛の讃歌」を歌い出します。ここはもう『サウンド・オブ・ミュージック』みたいな感じで素晴らしいのですが、このシーンで、彼女は「歌手志望である」ことをもう1度ハッキリさせ、この現実と折り合いをつけ、夢を追う決心をしたことを示唆しているのです。ここで、彼女の長い「旅」がおわり、ようやく新しい「世界」がはじまったのです。

 

 ここで、前田敦子さんについて書いてみます。彼女は、ご存知の通り、元AKB48のセンターでした。そして引退後は、女優志望だったこともあり、今は目覚ましい活躍をしています。この前田さんの経歴そのものが、劇中の葉子と被るところが多いのです。だから、葉子の苦労とか悲しみが非常にリアリティのあるものとして映り、それ故に本作は、私には前田敦子のプライベート・フィルムとしても観ることができました。

 

 誰しも、生きていれば迷うときもあると思います。そしてそんなときは、本作の葉子のように、周りとの関係が煩わしくなる時もあります。そんなときでも、現実と折り合いをつけて頑張っていこうとすることは、非常に普遍的な内容だと思います。故に、私にとって、本作は素晴らしい作品でした。

 

 

サイコサスペンス。こっちも好きです。

inosuken.hatenablog.com

 

 こちらの方が本作に近いかな。

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2019年夏アニメ視聴予定作品一覧

 

7月1日

 

 

【かつて神だった獣たちへ】 3話で終了。やっぱ合わんかった。


7月アニメ『かつて神だった獣たちへ』最新PV到着!

 作品紹介的にはあまり興味は惹かれなかったものの、制作がMAPPAなので見ます。

 

 

7月3日

 

ダンベル何キロ持てる?】


『ダンベル何キロ持てる?』番宣CM

 女子高生が筋トレするアニメとか前代未聞じゃん。

 

【彼方のアストラ】


TVアニメ「彼方のアストラ」PV第2弾

 原作は傑作だと思っていますので、一応見ます。でも製作はラルケなんだよなぁ。

 

 

7月5日

 

【荒ぶる季節の乙女どもよ。】


TVアニメ「荒ぶる季節の乙女どもよ。」第2弾PV

 マリーよ、今回はどんな嗜好を見せてくれるのだ。

 

【女子高生の無駄遣い】 2話で終了。何だろう、笑えるところもあるけど、合わんかった。何だろう。


TVアニメーション「女子高生の無駄づかい」PV第2弾

 何も考えず見れそうなギャグアニメなので、見てみます。

 

炎炎ノ消防隊


TVアニメ『炎炎ノ消防隊』本PV

 「かつて神だった獣たちへ」で流れた予告が良かったので視聴。 

 

7月6日

 

【ロード・エルメロイⅡ世の事件簿】


【FGO】TVアニメ「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-」第1弾PV │ 2019年7月より放送開始予定

 一応、「Fate」は見ているのでこちらも見ます。一応ミステリものなので、その辺も期待。

 

 

7月7日

 

ヴィンランド・サガ


TVアニメ「ヴィンランド・サガ」第1弾アニメPV

 原作好きなんです。WIT STUDIO制作という事もあり、期待しています。

 

からかい上手の高木さん2】


TVアニメ『からかい上手の高木さん2』PV第2弾

 1期を見ていた時は毎回身悶えするレベルの可愛さにやられていましたので、また2人のいちゃつきを見られると思うと喜びでいっぱいです。

 

 

7月8日

 

【ありふれた職業で世界最強】 なろう系のダメなところ全部盛りで、見ててある意味面白かった。


【ありふれた職業で世界最強】TVアニメ2019年7月放送開始予定!! ARIFURETA PV

 所謂異世界転生モノ。久しぶりのこの手のなろう系を見たくなったので。ありふれた職業で世界最強になって(多分)ハーレム建設できるとか最高じゃん。

 

コップクラフト


TVアニメ「コップクラフト」第2弾PV

 原作の存在を知り、いつか読みたいと思いながら読まずに来てしまった作品。原作も読みてぇなぁ。

 

 

7月11日

 

【ギヴン】


TVアニメ「ギヴン」PV

 ノイタミナなので見ます。でも制作がラルケなんだよなぁ(2回目)。

 

 

 以上、夏に見ようと思っているアニメ作品です。後から評判とか聞いて、見る作品を増やしていきたいと思っています。

人類への希望に満ちた作品【インターステラー】感想 ※ネタバレあり

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94点

 

 

 クリストファー・ノーラン監督が2014年に放った、SF超大作。公開されてからというもの多くの観客の心を鷲掴みにし、オールタイムベストに入れている人も少なくない作品です。そんな作品なのですが、私は全く観たことがなく、ここまで来てしまいました。上映時間も180分なので観るのも面倒くさいし、別にこのままでもよかったのですが、周りに本作を激推しする人間が多々いて、その人たちの熱に負けて今回鑑賞しました。

 

 さすが多くの人がオールタイムベストに選んでいる作品だけあって、とても楽しむことができました。確かにこれを映画館で観れば衝撃を受けるのも分かります。ストーリー的にも捻りが効いていて最後は騙されましたし、映画そのものも名作『2001年 宇宙の旅』の明らかなオマージュみたいな作品でした。

 

 

 本作には、『2001年 宇宙の旅』を彷彿とさせる要素が多々あります。核は行きて帰りし物語オデュッセイア」ですし、話の大まかな内容も、「何者か」に導かれ、人類が旅立つというものですし、TARSは完全にHAL9000がモデルだろうし、最後の展開も『2001年』のそれと酷似しています。また、おそらく撮影も可能な限りCGを使わずに行っており、それも『2001年』っぽさを強調していると思います。

 

 ただ、本作には『2001年』と決定的に違う点があります。それは、人類に対する視点です。『2001年』は人類の進歩を非常に愚かしいものとして捉え、それが人類そのものを滅ぼすとしていました。その象徴だったのが核兵器なわけで、ラストではモノリスによってスター・チャイルドとなったボーマン船長が、地球に戻ってくるところで終わっていました。

 

 しかし、本作では、その逆で、人類の進歩が自らを救う「希望」として捉えられています。ラストの五次元空間は(おそらく)人類が進化の果てに得た物でしょうし、その力によってクーパーは帰還し、人類は救われます。思えば、本作の主人公であるクーパー一家は、科学の進歩の歴史に真摯に向き合っており、それとは対極的に荒廃した世界では人類の歴史を学校で教えていません。そんな進歩の歴史を信じ続けたクーパーが、最後に地球を救うという点にも、ノーランの想いが入っている気がします。これは『2001年』とは対極のものです。また、方程式を解くための量子論を届ける方法として、「本」が使われている点も、ノーランの想いを感じ取ることができます。彼はインタビューで「本」という人類の叡智が詰まったものへ賛辞を送っていて、この点が反映されたのだと思います。

 

インターステラー (竹書房文庫)

インターステラー (竹書房文庫)

 

 

 この五次元空間によって、時間の流れが幾層にも重なっているという構造、そして、最後には円環構造になるというオチにも感服しました。私は最初の方は「ご都合主義すぎるだろ」と思っていたので、完全にしてやられましたね。さらにこれによって、ノーラン作品の中にあった、「いない人に囚われる人間」という要素が「時空を超えた愛」という点に変わっているのも本作の注目点だと思います。

 

 このような『2001年 宇宙の旅』の現代版、というか、ノーラン版アップデート作品と言える本作ですが、時間の概念の使い方、そして「科学と人類の叡智こそが可能性を切り開き、人類を進歩させる」というノーランの想いを感じさせる作品で、多少の粗はあれど、私は楽しめました。

 

※2020年9月5日追記

 9月18日公開の『TENET』に向けての「ノーラン祭り」として、満を持して公開された本作。IMAXで早速観てきました。やはり本作は、『2001年宇宙の旅』オマージュの作品で、それは「観客に体験を共有させる」という点まで同じです。IMAXで観るとそれがより際立ちます。さらに、露骨なオマージュシーンもありました。

 

 ノーラン作品としては、以前この記事で書いた点の他に、「脱出」と「帰還」の話でもあります。ノーラン作品ではしばしばこの2つの要素がありますが、本作でも「地球から脱出」し、そして地球に「帰還」しています。こういう点でも、彼は一貫しているなと思った次第です。

 

 

 おそらく元ネタ。IMAXで観たら感動しました。

inosuken.hatenablog.com

 

 こちらは「月に行こうとした男」の話。

inosuken.hatenablog.com