暇人の感想日記

映画、アニメ、本などの感想をつらつらと書くブログです。更新は不定期です。

まさしく11年の集大成。これまでの全ての作品に感謝します【アベンジャーズ/エンドゲーム(IMAX3D字幕)】感想 ※ネタバレあり

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100点

 

 

  遂にやってきた、MCU11年間の集大成。私は『アイアンマン』1作目から映画館で追いかけている!という長年のファンではなく、むしろ積極的に追い始めたのは2年前からというぺえぺえ。しかし、そんなことはどうでもよく、本作については昨年の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー(以下IW)』が終わった瞬間から楽しみにしていました。

 

 鑑賞してみると、確かに本作はMCUが歩んできたこれまでの足跡の集大成であり、映像的にも感情的にも空前絶後の映画体験をすることができました。

 

 

 本作では、個々のヒーローは「死」と向き合います。本編が始まってすぐ映されるのは、前作では戦いに参加していなかったホークアイの家族との日常です。最初は幸せそうな彼ですが、サノスの指パッチンの影響で、家族が突然消滅してしまいます。そしてその後に出てくるアントマン/スコット・ラングは、ずっと量子空間に取り残されていた関係で浦島太郎状態であり、同じく突然の事態に戸惑い、家族の生存を必死になって確認します。この2者のように、前作で参戦していなかった者を使い、当事者でない側からの被害や苦しみをまず見せているのです。私たちはこの光景をこれまでに何度か見ています。災害や事故などで大量の人間が死んだときは、その家族は何とか生き残ってくれ、と思うはずです。具体的にはアメリカでは9.11テロ、そして日本では東日本大震災を始めとする災害を挙げることができると思います。

 

 本作でヒーロー達が立ち向かわなければならないのは、こうした「死」なのです。突発的な災害やテロで死んでしまった人間に対して、ヒーローは何ができるのか?結論から言えば、何もできません。『IW』のラストでニック・フューリーはキャプテン・マーベルに信号を送っていました。我々はこれでサノスに勝てる、と思っていました。しかし、その思いはすぐに覆されます。冒頭20分でアベンジャーズはサノスに逆襲(アベンジ)するのですが、その様はさながらリンチ。弱り切ったサノスをヒーロー達が寄ってたかってボコボコにするというものです。しかもそれで何か何か解決するのかと言えば全くそんなことはなく、余計にヒーロー達の行動が痛々しく映ります。ここで、もう力ではどうにもならないことがはっきりしてしまうのです。

 

 もはや力ではどうにもならず、そこからの5年間、ヒーロー達は各々の活動を続けていきます。キャップは被害者のメンタルケアをしたり、ブラック・ウィドウは取りまとめ役として他のヒーロー達を指揮し、ホークアイに至っては自分で半ば八つ当たりをしています。もうあの悲劇を回復することはできないのです。

 

 てらさわホーク氏は、自身の著作「マーベル映画究極批評」において、『アベンジャーズ』の批評でこう記述していました。「MCUは9.11で何もできなかったヒーローの復権をしようとしている」と。サノスの指パッチンをホロコースト、9.11テロと読み替えれば、その後のヒーロー達の姿は、9.11の現場で、瓦礫の撤去しかできなかったヒーロー達の姿と重なります。本作で描かれていることは、まさしくこれだと思いました。思えば、MCU作品は『アベンジャーズ』以降も、『シビルウォーキャプテン・アメリカ』等でずっとこの「死」と向き合い続けてきました。

 

マーベル映画究極批評 アベンジャーズはいかにして世界を征服したのか?

マーベル映画究極批評 アベンジャーズはいかにして世界を征服したのか?

 

 

 このような陰鬱な展開に一筋の光明をもたらすのが、我らがアントマンアントマンの参戦により、中盤以降はタイムトラベルを利用したケイパーものになります。ここまでは事前予想通りでしたね。

 

 また、このタイムトラベルに対する描き方も非常に誠実だと思っています。というのも、しばしばこれらのタイムトラベルに対しては、批判が噴出する要素に、「個人の勝手な思いで他人の運命を左右していいのか」というものがあります。それこそ、サノスと同じです。しかも、こういう言い方は何ですが、タイムトラベルをして、サノスの指パッチンを無しにしてしまえば、トニーの娘は生まれていない可能性があるわけです。ここで、あの出来事を無しにしてしまえば、失われる命もあるのではということをきちんと見せています。そしてその上で、「失われた命だけを元に戻す」という選択をするのです。過去は変えず、現在だけを変えるのです。

 

 しかも、本作はここで驚くべきことをしています。何とここで、各々のドラマを補完し、さらに過去作を別の側面から捉え直しているのです。

 

 一番グッときたのは『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』。あの作品、というか、『ソー』シリーズに言えた、「ソーの母親の存在感の薄さ」をここで払拭し、さらにソーを前に進める理由付けにしているのです。

 

 また、別の側面からとらえ直したギャグとしても機能しています。それが一番出たのが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のあの冒頭。我々はピーターが感じている世界をそのまま観ているため、最初に観たときは「何てイカしてるんだ!カッコいいなぁ」とか思っていましたが、よくよく考えてみればあの曲はピーターにしか聞こえていないわけで、外から見れば、そりゃあ、アホにしか見えないだろと。あのシーンは最高でした。

 

 

 

 

 さらに、過去に遡ることで、トニー・スタークとスティーブ・ロジャースの後悔すら清算しています。いや本当に、隙のない展開だなと。

 

 一番大切なケイパーものとしての面白さも完備されていて、入念に準備をして、1つ1つ計画を実行していくも、予定外の事態に迅速に対応していくスリリングな展開は観ていてハラハラしましたね。

 

 ここで一番語らなければならないのがナターシャ/ブラック・ウィドウ。家族も何もなかった彼女が、他者のため、人類の未来のためにその身を捧げる下りは彼女の生い立ちを考えれば泣けてきますよ。

 

 そして全ての石を揃え、願いを成就させた後は、サノスとの最終決戦に突入します。ここからの各々の特性を活かしたバトルは素晴らしいですし、何よりサノスの軍団が来て絶体絶命のときに駆け付けたヒーロー達という超王道かつ上がりまくりな展開と、そこからBGMがピタッと止まって「アベンジャーズ、アッセンブル!」のキャップの掛け声で私のテンションは天井を突き抜けました。そこからのガントレットのリレーも最高だし、女性ヒーローたち勢揃いも最高だし、ピーターは相変わらずだし、見せたいものをすべて見せてくれます。

 

 と、ここまで観ていくと、あることに気が付きます。それは、本作が『IW』をそのまま裏返した作品だと言うことです。『IW』はサノス視点で石を集め、願いを成就させましたが、今回はヒーロー視点で願いを成就させました。そして『IW』で集まらなかったヒーローも集まり、全員で協力してサノスと戦います。

 

 そしてこの「裏返し」な点はラストもそうです。ラストで、サノスはこう言います。「私は絶対なのだ」と。これは自分の考えこそが宇宙のためになるのだという、非常に独善的な考え。前作では、ヒーロー達はこの思想に完敗してしまいました。

 

 

 対して、アイアンマンは、自らガントレットを取り、指パッチンを以てサノスたちを消滅させます。「私はアイアンマンだ」と言いながら。ここが本作の最大のポイントだと思っていて、この点が故に私は本作を素晴らしいと思います。というのも、トニー・スタークは以前は独善的な男でした。自らが兵器を売り、それで犠牲者が出てもどこ吹く風。MCU第1作『アイアンマン』はそんな自己中だった彼が正義に目覚め、自身がやったことに落とし前をつける話でした。その後もアイアンマンは数々のMCU作品に出演し、『アベンジャーズ』で自己犠牲の精神を身に付けたかと思いきや、『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』では成長してなかったりを繰り返してきました。そんな彼が、「自らの幸せを犠牲にして宇宙を救う」というというのは、『アイアンマン』サーガの完結として完璧な着地であり、それはサノスの「全体を救うためならば個々の幸せなどどうでもいい」とは対極の思想です。この点で、アイアンマンはサノスに「勝った」と言えるのだと思います。

 

 

 そして、アイアンマンとは対照的に、キャップは自らの幸せを全うし、キャプテン・アメリカを引退します。ここもキャプテン・アメリカ第1作のラスト、「ダンスに行く約束」を回収している点にもう泣きます。また、キャプテン・アメリカの象徴である盾を白人であるスティーブから、黒人であるサムに手渡す=継承させるというのも何だか『グラン・トリノ』のようなラストで(年老いたスティーブは、クリント・イーストウッドに見えなくもない)、時代の流れを象徴しているものだと思いました。

 

 このように、本作はヒーローものとして、そしてMCUの集大成として、最高の作品でした。本当にありがとう。

 

 

 前作です。

inosuken.hatenablog.com

 

 MCU第1作目。まさか本作そのものが伏線になっていようとは。

inosuken.hatenablog.com

 

 キャプテン・アメリカ1作目。

inosuken.hatenablog.com

 

銀河イチのダメ集団が帰ってきた!最高な2作目【ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.2(リミックス)】感想

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97点

 

 

 ※こちらも以前書いた記事の再掲です。

 

 

 あの宇宙のはぐれ者集団が帰ってきました。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の続編。前作も最高な作品でしたが、今作も負けず劣らず素晴らしい作品でした。最高に笑えて、最高にユルくて、最高にかっこよくて、最高に泣ける、エンタメ要素が全部盛りの傑作です。

 

 まず、オープニングから素晴らしいです。ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの面々が宇宙怪獣と死闘を繰り広げているものですが、そこはメインで映されません。代わりに映るのは、Mr.Blue SkyをBGMに踊るベビー・グルートです。このベビー・グルートが何とも可愛らしい。しかし、これとBGMのせいで後ろの死闘の緊張感が全く伝わらない。「この映画はこんな感じだよ」という宣言ですね。さらに、このオープニングでの、メンバーのベビー・グルートへの接し方で、彼らの端的なキャラ紹介もやってのけています。名オープニングだと思います。

 

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス オーサム・ミックス・VOL.2(オリジナル・サウンドトラック)

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス オーサム・ミックス・VOL.2(オリジナル・サウンドトラック)

 

 

 今作の中心はピーターの父親のエピソードです。彼の父親「エゴ」が登場したことにより、ガーディアンズの間に不協和音が生じてきます。そして、各キャラが抱えている葛藤が表面化し、彼らの絆が危機に陥るのです。思えば、彼らは「はぐれ者」で、孤独だったと思います。そんな彼らがチームになったのが、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」でした。ほとんど、なし崩し的と言っても良かったと思います。しかし、終盤でエゴの真の目的が明らかになったとき、チーム全員が集結し、1つの目的に向かって行動するのです。「ピーターを助ける」です。そして、そんなピーターも、育ての親ヨンドゥの一言で、「心」で繋がった仲間の大切さに気付きます。そして、ラストのみんなの気持ちが繋がっていることを示すように肩から肩へ移っていくベビー・グルート。もう涙なしには見られませんね。

 

 そして何より、ヨンドゥです。今作は彼のための映画と言っても過言ではないでしょう。中盤で最高にかっこいい見せ場を用意され、そしてラストの惑星脱出。組織の規律を犯したが故に「はぐれ者」になってしまった。そんな男が、最後に人々を繋いだあのシーン。あの感動。そして、スタローンはやっぱり最高な男でした。

 

 

 そして、ピーターは、ラストで壊れたウォークマンの代わりにヨンドゥが買ったituneを受け取ります。何だか、ピーターが血のつながった家族吹っ切ったようで、ここも良かったですね。

 

 また、今作は、「家族」の話であると同時に、人と人との絆の話でもあると思います。我々も同じでしょう。誰でも、最後のベビー・グルートの言葉を思い出す必要があると思います。「辛いときは思い出せ、俺たちはグルート」人間って、意外と1人じゃ生きられませんからね。

 

 とまぁ、最高に楽しいうえに感動出来て、しかも作品を通して何かを得た気分になれるこの映画。劇場で観ないと損すると思います。もう何回も「最高」って書いてバカみたいな文章になりましたが、それだけ素晴らしいと思ったという事です。最高!

IMAX3Dをフルに使った、トリップ・ムービー【ドクター・ストレンジ】感想

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79点

 

 ※こちらも以前別のブログで書いた記事を加筆・修正したものです。

 

 

 鑑賞しました。感想としては、「映像はすごいけど、話は消化不良」です。

 

 まず、良かった点。映像がすごいです。VFX使いまくりで、使ってないシーンの方が少ないです。VFXにより、建物が動く動く。IMAX3Dで観ているからか、臨場感が半端ではなく、世界そのものが動いている感じで、見ている間は視点が定まらず、落下するシーンなどでは、登場人物たちとともに浮遊感すら覚えました。これは、もはやアトラクションの領域だと思います。故に、本作は絶対にIMAX3Dで観た方がいいと思います。そういう意味では、一種尖ったものがある作品だと思います。

 

 次に、やっぱりベネディクト・カンバーバッチですよ。「傲慢な天才」と言ったら彼でしょう。彼の役者としての力か、ビジュアル的にストレンジがかっこいいです。他の俳優であったらあそこまであの衣装を着こなすことはできないでしょう。また、浮遊マントが何故かかわいく見えました。ああいう相棒感はいいですね。

 

 

 他のキャラも魅力的です。ストレンジと対極の存在であるモルドもいいですし、エンシェント・ワンの師匠感は圧倒的です。ウォンもいい奴ですし、カエシリウスについても、行動の理由を想像してみると、中々悲しいキャラだったと思います。また、モルドのラストの行動についても、彼のキャラから、何となく納得できました。あれも彼なりの正義なのでしょうね。つまり、全員の行動が、ある程度納得できるのです。こう考えると、本作は「正義とは何か」のような、哲学的な話でもある気がします。

 

 そして、ストーリーもいいです。中盤までは。ストレンジがどうやって魔術を手に入れたかを、丁寧に、かつテンポよく描写しています。ああいう修行パートは好きなので、見ていて楽しかったです。そして、肝である主人公の成長も感じることができます。最初は傲慢で、他人を信用せず、名声ばかり追い求めていたストレンジが、純粋に他者のために戦うことを決意します。そこには、本業である「医師」と同じ信念があります。どちらも、人の命を救っていることに変わりはないのですから。ヒロインとの決別が、この決意の重さを物語っているように思えました。

 

 さて、ここまで良かった点を挙げたので、個人的にダメだった点に移ります。

 

 まず、冒頭でも書きましたが、色々と中途半端です。時計は止まったままで、ストレンジはまだヒーローにはなれていない気がしました。故に、タイトルがラストに来るのでしょうか。しかし、オリジンとして、一応のけじめはつけてほしかったなぁ、と思います。まぁ、これはMCUお得意の続篇が決まっているが故の措置なのでしょうか。にしてもなぁ。後は、ストレンジが自ら進んで名乗らないのも気になりました。訂正で名乗るくらいです。そこははっきり名乗ってほしかったですね。

 

 次に、ストレンジの傲慢描写の少なさです。もう少しあれば、正義に目覚めるシーンが感動的になったような気がします。

 

 また、ラスボスとの最終決戦がショボいです。頓智はいいし、ストレンジがとった行動も、自己犠牲的で、これまでの傲慢な彼と比べると、他者のために戦う覚悟をしたのだなと、その決意を感じさせるものでした。しかし、もっと爽快感が欲しかったなぁと、勝手なことを思ったり。

 

 後はストーリーで、終盤は少し駆け足な印象を受けました。中盤まではいいテンポだったのに、最初の強襲からいつの間にか最終決戦になっていて、少し戸惑いました。

 

 このように、本作はいくつかの不満点はあれど、IMAX3Dを駆使した圧倒的な映像と、ベネディクト・カンバーバッチの魅力は最高で、その不満を補って余りあるくらいの良い作品でした。

 

 

トリップ映画繋がり。こっちはマジモンのヤバい映画です。

inosuken.hatenablog.com

 

 「傲慢な天才」繋がり。

inosuken.hatenablog.com

 

奇をてらわないアメコミ映画だと思う【インクレディブル・ハルク】感想

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77点

 

※この記事は、以前、別のサイトで書いた感想に、加筆・修正を加え、再掲した記事になります。

 

 

 『アイアンマン』に続くMCU第2作。最初は観なくても良いかなぁと思っていたのですが、『シビルウォーキャプテン・アメリカ』でロス長官も出てたことだし、本作もMCUの1つであることは間違いないわけで。そうなるとやはり観ておくに越したことはないだろうと思い鑑賞しました。

 

 続編が作られないことから、面白くないのかと思いましたが、観てみるとそんなことはなく、しっかり面白かったです。

 

 雰囲気は他のMCU作品とは違って若干暗め。これは題材の問題で、「国の実験に進んで協力した結果、感情が昂ると怪物になるようになってしまった男」の話であるためかと思われます。よくよく考えれば、かなりの悲劇ですからね。本作はそこをちゃんと描いていました。後は、エドワード・ノートンが口出ししまくったことも影響してるのかな。体質の関係で人と深い関係を築けないブルースは、観ていて悲哀を感じます。ただ、そこはさすがMCU。そこで「俺はこんな体になってしまった」と落ち込むだけでなく、ちゃんと前向きに生きようとしているのです。その姿には好感を持ちます。ここを考えれば、彼はアベンジャーズに参加できて、本当に良かったかもしれません。彼を何とか抑えられる人たちに会えたのですから。

 

 また、自身のダークサイド的な存在であるエミルと戦うことで、ハルクの存在相対化され、ただ凶暴なだけではなく、護るもののために戦う面が強まり、ヒーロー感が増しています。

 

 アクションについても、結構考えられていましたね。最後のエミルとのアクション・シーンが特にそうで、位置関係がとてもよく分かります。まず一直線の道路で戦い、次にビルを伝って移動してといった流れがストレスなく理解できるのです。

 

 このように、本作は予想に反して面白い作品でした。観てよかった。

 

 

MCUの前作。

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 違った意味で、ハルクの魅力爆発。

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邦題に偽りあり。コメディの皮を被った社会派映画だこれ【マネー・ショート 華麗なる大逆転】感想

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87点

 

 

 現在、絶賛公開中の『バイス』を監督したアダム・マッケイ。彼が制作し、アカデミー賞で脚色賞を受賞した本作。『バイス』が似たような感じの映画だと聞いたので、予習の意味で鑑賞しました。

 

 タイトルは「華麗なる大逆転」です。これだけで連想できるのは、きっと『オーシャンズ』シリーズのような、チームで金持ちから金を盗んでイェーイ!みたいな娯楽作品です。しかし、実際に観てみると全くそんなことはなく、寧ろこの「大逆転」そのものを極めて批判的に描いた作品でした。

 

オーシャンズ11 [Blu-ray]

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 本作は作品の性質上、経済用語が大量に出てきます。感想を読んでいると、これのせいで「よく分からなかった」という意見が多々見受けられました。私は大学時代に得た知識をフルに活用して観ることで、何となく理解することができました。ただ、観終わった今思うこととしては、本作は経済の知識があまり無くても、本作は「リーマン・ショックで世界の経済がメチャクチャになった」くらいのことを知っていれば楽しめるということです(まぁ、知識が無くても、入浴中のマーゴット・ロビーとか、実在の経済学者が最低限の事は説明してくれるし)。何故ならば、この大逆転はあくまでも表面上の要素だからです。

 

 というより、本作に関して言えば、この「難解な言葉で分からない」事こそが肝と言えます。劇中でライアン・ゴズリングが第4の壁を破って我々にこう語りかけています。「アイツらは難解な言葉を使って素人を煙に巻く」と。この言葉に代表されるように、本作には難解な言葉を用いて、善良な人々を騙くらかして金を巻き上げている連中ばかり出てきますし、映画そのものもこういう構成をとっています。

 

 本作では、金融機関とそこの人間は、一般人が何も分からないのを良いことに、粗悪な株を乱発し、やがては金融バブルを作り出していきます。しかも、ここからが恐ろしい点で、彼らは金融バブルが起こっている事実に気づいていながらそれに対して何らかの対策も取ろうとしないのです。つまり、問題を徹底的に先送りしているのです。これは何もリーマン・ブラザーズに限った話ではなく、今の日本にだって十分通じる内容だと思いますよ。国債とかね。

 

 

 そして、それらの事なかれ主義が生んだ結果については、我々が知っている通りです。世界経済は破綻し、大混乱になりました。日本だけでも相当の影響がありましたね。その皺寄せを食うのは誰か?普通に考えれば、この事態を引き起こした奴らです。しかし、現実はそう上手くはいかない。1番の皺寄せを食うのは、我々のような「一般人」です。本作はこの点をまざまざと見せつけてくるため、タイトルから連想されるような娯楽作のカタルシスは一切なく、寧ろやるせなさしか残りません。

 

 金融業界の「複雑な」点に対する知識がない事を良いことに、金を儲けようとした一部の奴らがいる。そして、それらの積み重ねで金融バブルが起こり、弾け、大勢の人間が不幸になった。本作は、作りは自由でコメディっぽいですが、こういった問題を抉り出した立派な社会派作品だと思います。

 

 

こっちは華麗でした。

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 こっちも「経済的に弱い人」が割を食う映画。

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戦争が生んだヒーロー【アイアンマン】感想

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82点

 

はじめに

 この記事は、2017年に他のレビューサイトにアップしたものに加筆・修正したものになります。『アベンジャーズ/エンドゲーム』の公開に合わせ、このブログに掲載していなかった作品もアップしようと思い、今回、この記事をアップします。

 

感想

 MCU作品第1作。今作の成功がなければMCUはアメコミ映画を現在まで作っていなかったでしょう。そしてMCUの成功がなければ今のアメコミ映画ブームは無かったでしょうし、そういう意味では映画の歴史を変えた作品と言えなくもない作品だと思っています。

 

 感想として、カラッと楽しめるとてもいい娯楽作で、観ていて非常に楽しかったです。しかし、ただ楽しいだけではなく、現代のアメリカが抱えている矛盾にもスポットが当たっている良作でした。

 

 何故今作が面白いのか。それはやはり、主人公、トニー・スタークの魅力が半端じゃないからだと思います。そして、彼を完璧に演じているロバート・ダウニーJrの演技が素晴らしいです。当時はあり得ない人選だったらしいですが、今考えてみれば、彼ほどトニーを演じられる人はいなかったと思います。それは、彼の経歴が俳優版「トニー・スターク」だからでしょう。完璧にマッチしています。

 

 今作では半分近くがヒーローになるまで、所謂「オリジン」パートですが、全く飽きません。それは、テンポが良いのもありますが、やはり、アーマーを作る試行錯誤が観ていて面白いからでしょう。トライ&エラーを繰り返しながら自分が考えた最強のアーマーを作っていく過程は観ていてワクワクします。

 

 また、トニーの心境の変化も見どころ。それまで傲慢だった彼が一度「死に」、新たな心臓を得ることで「生まれかわ」った彼が、最後に立ち上がるために「心」が入った心臓を入れる。あそこで、彼は生まれ変われたと思います。

 

 そして、試行錯誤を繰り返した末に完成したアーマーを使ってヒーロー的活動を行う瞬間はやっぱりカタルシスがあります。

 

 ここまでだとただのヒーロー映画ですが、含んでいるテーマは結構シリアスです。所謂「力で力を抑える」ことの矛盾です。本作ではアイアンマンそのものが矛盾を体現していると思いました。

 

 トニー・スタークは自身の兵器が敵にわたって人を殺すのに加担している現状を見て、兵器の殲滅のためにアイアンマンスーツを作りますが、これが矛盾そのものの体現だと思います。つまり、強力な武器が強力な武器を呼ぶのです。

 

 では武器を持たなければいいのか。と言えばそうでもなく、現状、武器を「殲滅」するためにはアイアンマンのような強力な兵器が要ります。平和的に解決できれば一番ですが、本作のように武器を輸出して利益を出している者と、それを必要としている機関がある限り終わりはないでしょう。日本も原則武器輸出解禁したし。そして、敵もトニーが作った試作機から強力な兵器を作ります。

 

 つまり、私はここに強い兵器を作れば作るほどより強力な兵器が生まれるという泥沼が体現されていると感じるのです。この姿は、アメリカそのものを思わせます。

 

 ヒーローものでこういうことをやると、ヒーローの存在そのものが矛盾してしまいますが、今作では、トニーが正義感からではなく、責任感からヒーローをすることで、上手く緩和できてたような気がします。ヒーロー映画で国の問題も体現した今作。ヒーロー映画としても、1つの映画としても面白かったです。

 

 

続篇。こっちは微妙だったなぁ。

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 3部作最終作。こっちは、アイアンマンをスタークが内面化する話だったと思います。

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「すべてがサイコー!」のその先へ【レゴ(R)ムービー2(日本語吹き替え版)】感想 ※ネタバレあり

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86点

 

 

 「レゴをレゴのままアニメーションにする」という前代未聞の試みと、完成度の高い脚本、そして「レゴ」だからこそ込められる普遍的なメッセージ。前作は、劇中の歌の通り、「全てが最高」な作品でした。

 

 本作はそんな前作『レゴ(R)ムービー』の5年振りの続編です。監督こそ『シュレック フォーエバー』のマイク・ミッチェルに代わりましたが、脚本には、前作では監督も務めたフィル・ロードクリストファー・ミラーが続投ということで、安心して楽しみにすることができました。

 

 

 鑑賞してみると、前作で我々を存分に楽しませ、驚かせた「レゴの動き」と、テンポよく進むストーリーも健在。しかし、本作はそれだけに終わらず、前作で提示したテーマを発展させ、その「先」までをきちんと描いた作品で、続編として「最高」でした。

 

 前作のテーマは何だったかと言えば、それは「独創性」だったと思います。レゴは自由な発想で自由に遊べる。独創性次第で、エメットみたいなモブすらヒーローになれる。大人になれば固定観念に囚われてしまい、自由な発想が出来なくなる事と対比されることで、感動的な内容になっていたと思います。

 

 本作は、『インクレディブル・ファミリー』と同じく、前作のラストから始まります。エメットの友好姿勢も虚しく、謎の勢力の介入により、荒れ果ててしまったエメット達の世界(それが完全に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』なのには笑うしかありませんが)。皆の心は疲れ果て、シリアスなモノローグを連発して生きるようになってしまいます。しかし、そんな中でもエメットは相変わらずのお気楽思考。その姿に呆れた仲間からも、「早く大人になれよ」と嗜められてしまいます。本作では、前作でレゴの可能性を示してみせたエメットが「大人」になろうとする姿を描きます。

 

 

 ここでエメットが目指そうとする「大人」は今の彼とは正反対のものです。シリアスになり、目の前の敵を殲滅することに躊躇しない、ワイルドな奴です。この目指すべき姿を体現しているのが、中盤から出てくるレックス。彼は見た目がとてもワイルドで、孤独に生き、敵勢力に容赦しない、エメットの憧れそのもの。声優も同じで、ヴェロキラプトルを部下に持つという声優ネタも完備しています。そんな頼れる存在ですから、もちろんエメットは彼のようになるべく、共に行動します。そしてその甲斐あってか、エメットはレックスの必殺技も使えるようになり、見事に敵勢力の企みを打ち砕くのです。

 

 しかし、ここでハッピーエンドにならないのがこの映画。中盤で、これまでと視点がガラリと変わる展開が起こります。「敵」だと思っていた奴らは、実はただ遊びたかっただけだと分かり、「理想の大人」だったレックスが全ての黒幕だと判明します。

 

 この視点の転換により、「理想の大人」と信じていた姿は、見方を変えればただ相手の事を受け入れなかっただけの存在だった事が明らかになります。前作では、個人の「独創性」の大切さを描いていましたが、それはあくまでも1人で遊ぶ範囲内の事でした。この1人だけの独創性を突き詰めてしまった存在がレックスなのです。そしてこの姿は、現実の子どもの姿とも重なっています。前作では、型通りにはめようとする父親と対比させ、子どもが持つ独創性が如何に豊かなものであるかを見せていました。しかし、そんな彼も年齢を重ね、妹の価値観を認める事ができない男になってしまいました。この姿は、「違う価値観を認めることができない」点を見れば、かつての父親の姿と重なります。子供が成長し、父親のようになってしまったのです。

 

 

 本作は、子供が相手の価値観を認めるという点を、エメットが、自身のダークサイドであるレックスに打ち克つという描写に託していると思います。そしてそれにより、前作のテーマがより発展し、「共創」の話になっています。

 

 これは前作と同じく、「レゴ」だからこそ出来る内容だと思います。レゴを遊んでいた子供が、誰かと共にレゴを遊ぶ。これは自分だけの世界から、他者と関わるようになる子供の成長過程と重なるからです。

 

 1人で作っていれば、「全ては最高」だったかもしれない。しかし、他者と関わらなければ人は生きていけないし、限界もある。他者の価値観を認め、共に創造することで、より楽しいことができる。本作は、やっぱりレゴらしく、「つながる」ことを描いていたと思います。

 

 以上のように、本作は、前作のテーマをさらに発展させた、かなり良い続編でした。ただ、観ていると、やっぱり『ハン・ソロ』を降ろされたことをまだ根にもってんのかなぁ、とは思います。

 

 

2人が監督するはずだった作品。

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 2人の最新作。こっちもとんでもない傑作でした。

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